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アメとムチ

実はこれが初の全年齢話。

でも何か物足りないのか(汗;)


続きからどうぞ!


アメとムチ



「ここは――」

どこかで見たことのある家の中にエレンは立っていた。
そして目の前には――2人の男の死体が転がっている。

「あっ――」

手に生温かい、ぬるりとした感触。恐る恐る視線を移すと、真っ赤で鮮血な色に染められていた。そして右手に持っているのはナイフ。

「ひっ――!」

慌ててナイフを手から離すとゴトンと鈍い音が耳に響き渡る。ガクガクと足を震わせながらエレンは後ずさった。

――オマエガコロシタ

「だってコイツらはミカサの親を殺したんだ!そしてミカサにまで危害を加えようとした!当然の報いだ!」

――オマエハヒトゴロシダ

「うるさいっ!仕方なかった!あいつらを殺さなければ俺もミカサも殺されてた!」

――オマエハキョジンニナッテモヒトヲコロシツヅケル

「なっ………」

――コレカラモズット……


「――――っ!」

布団から飛び起きたエレンは全身に汗を掻いていた。なぜか乱れる呼吸、心臓の鼓動もいつもより早いようだった。
何度か深呼吸をして、ようやく落ち着いてきた頃に額に汗を拭う。
エレンがいるのは石畳の床に石の壁という殺風景な部屋。地下にあるため窓もなく、いまが夜中なのか朝なのかさえもわからない。
唯一の入口にある部屋の扉は重い鉄でできていて、簡単に開けることもできない――そう、ここはいわゆる独房だった。

エレン・イェガーの身柄は調査兵団預かりとなっている。
来るべきウォール・マリア奪還作戦に向け、その鍵ともなるエレンは調査兵団の中でも精鋭が揃う【リヴァイ班】に囲まれて生活している。
今回の作戦はエレンの巨人化の力は必要不可欠である。しかし、エレンが巨人化した際、意識を保つことができずミカサを攻撃したことから、いわゆる保険をかけるためにいまは使われていない旧調査兵団本部へとエレンは隔離されることになった。
エレンは初日からリヴァイの厳しい指導のもと、すべての部屋の掃除をさせられた。
そしてエレンに与えられた部屋が地下の独房というわけだ。その前も似たような場所に閉じ込められていたエレンにとってはストレスの溜まることだが、リヴァイ曰く巨人化の力をまだうまくコントロールできないエレンへの安全措置ということであるため受け入れざるを得ない。

「それにしても……」

エレンは自分の胸に手を置いた。
胸の奥底にしまっていた過去の遠い記憶――それを思い出させたのはあの裁判のような場所でエレンとミカサの過去の事件を明かされたからだろう。
幼かった自分は非力だった。もっと力があれば、あの男たちを殺さずにミカサを救えたのかもしれない。しかし、当時のエレンにはあれが精一杯だったのだ。
幼すぎてひ弱だった自分は母親も救うことができなかった。
だからこそエレンはより強い力を手に入れたかった……巨人を一匹残らず駆逐するために。
エレンが右手を強く握りしめ、気を取り直そうとしたその時、重いはずの鉄の扉が勢いよく開いた。

「起きてるか、エレン?」
「リヴァイ兵長……いま何時ですか?」
「朝6時ってところか。――どうしたお前、顔色悪いんじゃないか?」

リヴァイが顔色の優れないエレンの顔をまじまじと覗きこんでくる。
エレンは反射的に顔を横に逸らした。

「別に――少し夢見が悪かっただけです。」

トクン――とエレンの胸の鼓動が静かに音を立てた。この距離でリヴァイに気づかれはしなかったかと思うと途端に羞恥心のようなものが沸き上がってくる。

「――体に少しでも不安があるようなら言え。ハンジをすぐに呼ぶ。」
「はい―――。」

リヴァイは特に気にする様子もなく、スっと静かにエレンから離れてそのまま部屋を出て行った。
扉が開け放しになっているのは、エレンが部屋から出てもいいということだ。
エレンはふぅっと安堵の溜息をついた。

――どうもリヴァイ兵長のことは苦手みたいだ……

いままでエレンの傍にはいなかったタイプの人間だともいえる。
出会いは以前いた地下の独房だった。その前に巨人化したエレンがトロスト区の穴を塞いだ際、中にいた巨人に襲われそうになったミカサやアルミンたちを寸でのところで助けたのがリヴァイだったのだが、エレンは覚えていない。
訓練兵団にいる頃もリヴァイの噂はよく聞いていた。一人で4,000人分の兵力を有し、一瞬で巨人のトドメを刺すことができる【人類最強の一人旅団】。エレンがずっと憧れていた存在だ。
しかし、実際のリヴァイはエレンの想像とは遥かに違っていた。
自分の巨人の力が不安定な状態であるとはいえ、なぜか目の敵にされている気がする――
この場所に来てから、エレンはずっとほぼ一日対人格闘術と称して痛めつけられていた。
技術的にも体力的にもエレンはリヴァイに遠く及ばない。
わかっているのに、リヴァイは手心を加えることなどは絶対に無い。おかげでエレンは毎日生傷が絶えなかった。
しかし、どんなに体から痛みを感じて血を流したとしても、しばらくすれば何事もなかったように綺麗に傷は塞がれていってしまう。ここ最近はその繰り返しだった。


「うっ―――!」
「動きが鈍い。」
「くそっ―――!」

よろよろと起き上がり、エレンは体勢を立てなおすと同時に深呼吸をした。

――しかし、ここまで歯が立たないなんて……

訓練兵団時代、エレンは対人格闘術に長けたアニやライナーなどとよく手合せをしていた。
対人格闘術が点数にならないことを知ってはいたが、エレンはそれでも何かの足しになるのではないかと腕を磨いてきたはずだった。

――落ち着け……

狙いを定めてエレンは真っ直ぐに飛び出す。フェイクをかけてリヴァイの両足めがけて蹴り出したがそれもリヴァイに読まれていたのかヒラリとかわされてしまった。
宙にフワリと浮いたリヴァイが身を捩ったかと思うと、その後は目に留まらぬ速さだった。何が起こったのかわからなままエレンの首元に激しい衝撃が走った。

「あっ――――!」

エレンの体は飛ばされ、そのまま地面に叩きつけられてしまった。
頭がクラクラしながらも必死に起こすと、何の感情もないような冷めた視線でリヴァイが見下ろしていた。
正直、どうしてこう毎日ここまで叩きのめされなければいけないんだ……エレンの中の不満がどんどん大きくなっていくのがわかった。

「もうすぐハンジがやってくる時間か――今日はこれまでだな……」

そう言っていまだ地面に這いつくばるエレンを残し、去ろうとするリヴァイの背中。
エレンは歯を食いしばりながら声を絞り出した。

「どうして――ここまで俺を痛めつけるんですか…?」

2~3歩踏み出したリヴァイの足が止まる。しかし、エレンに背中を向けたままでこちらを振り向こうとしなかった。

「お前――自分が巨人化した時、どうして記憶が無くなることがあるのだと思う?」
「え――?」
「これまで調査兵団のたくさんの命を犠牲にしても巨人の真相は謎だらけのままだった。お前という巨人化する人間が現れて、ようやく形成が逆転できる契機だがやってきた――」
「…………」

ようやくリヴァイがエレンの方を振り向いた。その目はさっきまでと違う――いろんな感情が複雑に入り混じっている気がした。

「俺たちはこの機を逃すわけにはいかない――だからなるべくならお前を殺さずに済ませたい。お前だって目的を果たさないまま死にたくはないだろう?」
「―――もちろんです。」
「これは俺の推測だが、お前が巨人になって自分をコントロールできなくなることがあるのはお前の意思の弱いところを巨人の力に付け込まれているんじゃないのか?」
「それは―――」

確かにそうかもしれない。強い意志と自傷行為によってエレンは巨人化することができる。しかし巨人になってからも意思を保てなければ、その心を支配されてしまうのではないだろうか。
エレンの強い意志の糧となっているのは、5年前巨人に殺された母親の死――あの時、自分が非力だったことを思い知らされ、一匹残らず巨人を駆逐してやるという固い決意を胸き刻んだ。

「もっとだ……もっと強い心を持て、エレン――」

リヴァイはそれだけ言い残して、その場を去った。
エレンがフラフラを起き上がる頃には、痛みも傷もすっかり無くなっていた。
しかしこれまでつけられた痛みの感覚はエレンの中に蓄積されていた。

――躾に一番効くのは痛みだ。

裁判の時のリヴァイの言葉が蘇る。憲兵団にはエレンが手に負えないことを知らしめるための演出とはいえ、あのときリヴァイから受けた痛みはこれまでとは比べ物にならないものだった。

「くそっ、俺はこれでも人間なんだ。家畜や奴隷なんかじゃない。」

リヴァイに対し、一矢報いることもできない自分のひ弱さに腹立たしくなる。
恐らくリヴァイの言うとおり、たとえエレンが巨人化したとしてもリヴァイに勝つことはできないだろう。
それでもエレンは5年前の自分に戻るわけにはいかない。

――もっと強い心を持て、エレン

さきほどのリヴァイの去り際の言葉が蘇り、エレンの胸はなぜか熱くなった。

「もしかして……こう毎日俺を痛めつけてるのは、精神力を鍛えるため……?」

エレンは立ち尽くしたまま、リヴァイはいなくなった先の方向をしばらくジっと見つめていた。



「傷がすっかり無くなってる。すごいのね、巨人の力って……」

エレンが戻ってから待ち構えていたペトラが応急手当をしようとしたのだが、何事もなかったかのようなエレンの綺麗な体を見て驚いた。

「でも……傷や感覚としての痛みはすぐに消えても、痛めつけられた記憶は残るんです。」
「そうなのね……まぁリヴァイ兵長相手だから仕方ないのかな……」

ペトラは苦笑いしながら、喉が渇いただろうとエレンに冷たい水を差し出した。

「ペトラさんはリヴァイ兵長のことをよく知ってるんですね。」
「えっ――?」
「ほら、この前もリヴァイ兵長が調査兵団に入った経緯とか教えてくれたでしょう?」
「あ――」

ペトラの顔が耳まで真っ赤になっていくのがわかった。

「私が調査兵団に入ってすぐの壁外調査で死んでいたかもしれないの。」
「え――?」
「巨人の動向を探っていた探索班の情報伝達ミスでね、予想外の場所で奇行種に襲われて――私以外の班員全員があっという間にやられてしまったの。」
「全員………」

エレンは言葉に詰まった。幼い頃、何度も見た光景――壁外調査から戻ってきた調査兵団の絶望した表情を思い出した。

「残るは私一人……巨人が生きている人間を見過ごすはずがない。情けないことに足腰が立たなくなってしまった私を無数の巨人が囲んだわ……もうダメだと死を悟った瞬間、巨人たちが次々と倒れていったの。」
「――リヴァイ兵長……」

ペトラはコクリと頷いた。その瞳にはただの憧れ以上の光が宿っている。

「私たちの班がほぼ全滅だと知りながら来てくれた――私、リヴァイ兵長には強さの他に無限の優しさがあると思うの。それからの私は自分の腕を上げることに必死だったわ……そのおかげもあってこうしていまリヴァイ班に配属されてうれしいのよ。」

あぁそういことか――これまで恋愛経験のないエレンにもペトラがリヴァイに尊敬以上の好意を持っているんだということが直感的にわかった。

――何だろう?この感じ……

胸の中がモヤモヤしていくのに合わせて頭の中が次第にボーッとしてきた。
エレンは訳のわからないまま、視界が歪んでいく。

「エレン?どうしたの?エレン!?」

ペトラの叫び声が遠くからこだましている。やがて深くて暗い穴の底に沈むように、エレンの意識は遠くなっていった。


真っ暗で何も見えない空間にエレンは一人立っていた。

「これは……また夢――なのか?」

――オマエハヒトゴロシダ

聞こえてくるのは何度も夢に出てきた姿の見えないあの声……360度見回しても影さえも見つからない。

「違う!俺は今度こそ大切な者を守ってみせる!」

――オマエハコレカラモヒトヲコロシツヅケル

「うるさいっ!いい加減に姿を現せ、卑怯者!」

エレンの叫びに反応したのか、前方から急に光の玉が湧いて出てきた。眩しさに目を細めると、やがて光の中から人型のようなものが形づくられてきた。

「お前は―――」

エレンは茫然とした。姿を現したのは巨人化した自分だった。

――オマエニオレヲオサエルコトナドデキナイ

巨人は何か人影のようなものを掴み口の中に入れようとしている。視界がはっきりしたとき、巨人が手にしているのがミカサやアルミンだということがわかった。

「やめろぉぉぉぉぉぉ!」

エレンが必死に巨人に追いつこうとするが、なぜか距離が縮まらない。
エレンの努力も虚しく、二人は巨人の口の中に放り込まれてしまった。
また自分は救えなかったのか――エレンは目から熱い涙を零しながらその場に崩れ落ちた。

――オマエハジブンジシンノテデダイジナモノヲナクス

俺がミカサやアルミンを?そんなはずなどない――俺はもう、大事な者を死なせはしないとあの時誓ったんだ。
エレンはギリっと歯を食いしばりながら立ち上がり、巨人を睨みつけた。

「絶対にそんなことはない!俺は――お前の力を利用して巨人をすべて駆逐してやるんだからな!もう俺の夢から消え去れ!」
「よく言った、エレン――」

どこかで聞いた声。頭上の空間がピシっという音とともにヒビが入ると、そこを破って入ってきたのはリヴァイだった。

「リヴァイ兵長――!」

リヴァイは軽い身のこなしと素早い動きで、一瞬にして巨人の急所であるうなじをその刃で切り裂いた。
巨人は大きなうめき声を上げ、そのまま光の中に飲み込まれていった。


「――――っ!」

急に何かに引き戻されたような感覚――エレンが目を覚ますと見慣れた地下牢の天井が広がっていた。

「ここは……俺の部屋?」

地下牢は室温調節が難しく、夜はいつも寒くて身を縮ませるほどだというのにエレンの体は温かい何かに包まれている。
何だろう?と首を横に振ると、息もかかるくらいの距離にさっき夢に出てきたリヴァイの寝顔があった。

「×▽※◆□――――!!」

驚きのあまりエレンの心臓が飛び出すかと思った。リヴァイが自分と同じベッドで寝ている?しかもよく見てみれば、互いの身は何一つ纏っていなかった。

―――ど、どどどどどどうして俺とリヴァイ兵長が裸で抱き合って寝てるんだ!?

状況はよく呑み込めないまま動揺ばかりが広がっていく。それを察知したのかリヴァイの瞼がピクリと動いた。

「――目を覚ましたか、エレン。」
「兵長、こ、これは一体―――」

うろたえるエレンとは正反対に、リヴァイはフワっと欠伸をしながら上半身を起こした。

「この三日間――お前はずっと高熱出して目を覚まさなかった。」
「え―――?」
「原因もわからないままだったからな。俺がここでずっと付き添っていた。」
「リヴァイ兵長が……」
「お前に何かあったら止められるのは俺だけだからな。」

リヴァイの曇りのない瞳がまっすぐにエレンを捉えて今度は離さない。
トクリ――あのときと同じくエレンの心臓が高く跳ね上がる。それはこれまでとは違う、包み込むような温かさと甘さと伴うものだった。

「で、でも……この恰好は何なんですか?」
「ここは夜になるとかなり冷え込む。お前の熱もなかなか下がらないし、かと言って不安定な状態のお前をむやみに動かすわけにはいかない。お前の体が冷えないように温めていた。」
「//////////////」

ということは一晩中この恰好で抱かれていたということか……頭のてっぺんから足のつま先までエレンの全身が真っ赤に染まっていく。
そんなエレンの羞恥心を知ってか知らずか、リヴァイはエレンを抱く腕の力をギュっと強めた。
リヴァイの本心がよくわからないエレンは慌てて抜け出そうとするが、熱が下がったばかりで力入らない。

「ちょっ……リヴァイ兵長?」
「少し……やり過ぎたか?」
「え……?」
「憲兵団の弱腰野郎どもはいつだって難癖つけてお前を解剖して処分しようと画策してきやがる。お前が巨人になっても人類の味方だと証明するためにと思ったが急ぎすぎたかもしれない……」
「あ…………」

どうしてリヴァイが毎日のようにエレンの体を痛めつけるのか――エレンはようやくすべてを理解すると同時にうれしさが込み上げてきた。

――この人は誰よりも真っ直ぐで、そして優しい人なのかもしれない

ペトラの言葉を疑っていたわけではないが、エレンにもようやくリヴァイの優しさに触れることができた。
いつか自分もリヴァイのような強さを手に入れたい。この人に追いつきたい――
それでも弱さに負けて自分を見失ってしまったら――リヴァイならエレンが大事な者をこの手で失う前にその命を絶ってくれるだろう。

「リヴァイ兵長、ありがとうございます。万が一、俺が自分の大事な者たちを手にかけることがあったら、俺のことを殺してください……」

エレンの口から漏れたのは素直な気持ちだった。
リヴァイはしばらく黙った後、胸にうずくまるエレンの顔を自分の方に向けそっと唇を重ねた。
エレンは驚きのあまりビクンと体を跳ね上げた。意外に柔らかいリヴァイの唇の感触に、胸の奥からじんわりと熱が広がってきた。
当然エレンにとっては初めてのキスというわけで。調査兵団での厳しい訓練しか受けてこなかったエレンにとって、異性を好きになるという感情さえもいままで経験したことはなかった。

「んっ―――――」

自分のものとは思えない甘い吐息にますます心臓の鼓動が早くなっていく。どうしていいのかわからず、ただリヴァイの唇に翻弄されるエレンが息苦しくなってきた頃合いを見計らってようやく離れていった。

「お前はもう大丈夫だ。ずっとお前の心を支配しようとしていたアイツに打ち勝っただろう?」
「まさか……兵長もあの夢を?」

リヴァイは無言で小さく頷く。そしてエレンの体は再び強く抱き締められた。

「エレン……お前は俺たち人類の長年に悲願を達成するための大事な鍵だ。だが俺にとってはそれだけじゃない――」
「リヴァイ兵長……」
「お前は俺のものだ――だからお前だけは俺の前からいなくなるな……」

エレンはリヴァイの本音が聞けたような気がした。いままで数多くの仲間の死と向き合ってきたリヴァイ。それでも強くあり続けるリヴァイが唯一縋れるのが自分だとしたら……こんなにうれしいことはない。

――俺、もしかして兵長のことを好き……なのかもしれない

キスをされて吃驚はしたが嫌悪感は全く無かった。それ以上に、さっきのキスだけでは物足りないと思っている自分がいるのは最早隠しようがなかった。
いまのエレンはそのことを自覚したばかり。さすがに口にはできないので、リヴァイの背中に腕を回して抱き返した。

「リヴァイ兵長……俺、もっともっと強くなります。もうこれ以上、大事なものを失わないために――」
「エレン……」
「だから、これからもよろしくお願いします。」

本当はもっと気の利いた言葉があるのだろうが、いまのエレンにはこれくらいしか思いつかない。
それでも気持ちが伝わったらしく、リヴァイは口から安堵のような溜息を漏らしながら、枕元に置いていた懐中時計をチラっと見た。

「明け方までまだ大分あるな。」
「え?」
「明日からはいままでのような対人格闘術はやめることにする。その代わり――」
「????」

エレンの体がいきなりベッドに押し付けられ、その上からリヴァイが覆い被さってきた。

「これからはもっと違う痛みを教えてやる――」
「え――?」

悪寒が走ったエレンの額から冷や汗のようなものが零れ落ちる。
リヴァイはそんなエレンの目尻にチュっと音を立てながらキスをした。

「大丈夫だ。こっちは慣れれば痛みよりは気持ちよくなるだろうしな……」
「ちょっ、一体何を言ってるんですか?リヴァイ兵長!?」
「俺はこの3日間、目を覚まさないお前を抱きながらずっと我慢していたんだ。そんな俺を少しは労わってもいいだろう?」

ニヤリと口に端を上げ、不敵に笑うリヴァイ。長いひとさし指でエレンの首筋から鎖骨までを弄ぶかのようになぞった。それだけでエレンの体に電流のようなものが駆け抜けていく。
リヴァイがこれから自分に何をするのか理解したエレンは、もう拒めないという諦め以上にリヴァイにもっと触れて欲しいという欲望のようなものが勝っていることを認めざるを得なかった。

「いいですよ、俺、リヴァイ兵長のこと信じていますから――」
「へぇ……随分と可愛いこと言うようになったじゃねぇか、エレン。」

俺は遠慮しないぞ、とリヴァイが耳元で小さく囁く。
これから始まる痛みの中に甘さが溢れるアメとムチの時間――エレンはリヴァイにその身を委ねた。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

後書き

え、エロシーンがないですって?
そうですね、もう一つの痛みのシーンないですね……
でもこれあらためて読み返してみると、やっぱり大人向けな感じがしますね。
ほのぼのとかギャグを書いてみたいなぁと思う今日この頃……


テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

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