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CC大阪新刊「MY DEAR BODYGUARD」サンプル

2017. 1. 8 COMICCITY大阪109 6号館B し72b
2017. 1.29 第12回壁外調査博 ウ18b


ボディガード&女装アイドルパロ
MY DEAR BODYGUARD
A5/116P/1,000円/R18
表1のみ


【あらすじ】
今度こそ、大切な者を守ってみせる

殺戮マシーンとして生きるしかなかった自分に新たな道と名前を与えてくれた合衆国大統領・エルヴィンのシークレットサービスだったリヴァイは爆破テロ事件をきっかけに、日本にやってきた。いまは運び屋から猫の捜索、浮気調査までやる何でも屋として日々を過ごしていた。
ある日、有名な音楽プロデューサーであるハンジから人気絶頂中の女装アイドル・エレりん(エレン)のボディーガードを依頼される。
リヴァイがシークレットサービスを辞めるきっかけ……エルヴィンを守りきれなかったことで、二度とボディガードの仕事はしないと固く決意していたリヴァイだったが、ハンジの熱意とエレンの境遇を聞かされたことで渋々引き受けることに。
後にこれが運命の出会いへとつながる。ハードボイルドラブ。


とらのあな予約→コチラ

サンプルは途中からです。



「一緒に紅茶でもどうかね、リヴァイ?」
「仕事中に横槍入れてくるんじゃねぇよ。」
「ナナバがね、イギリスから取り寄せてくれた紅茶の葉なんだ。私はどちらかというとコーヒーより紅茶派でね。君も好きになってくれるといいのだが……」

 ティーポッドから湯気と茶葉の香がリヴァイの鼻をくすぐる。エルヴィンは執務の合間に紅茶を飲んでは、リヴァイを誘おうとした。

「フン………呑気なものだな。」
「仕事にも休息時間は必要だろう?」

 こいつ、自分が守られている自覚というものがあるのか?と、せっかく張り詰めた緊張が崩されてしまう。成り行きでエルヴィンのボディガードになってまだ数か月、この前も同じ上院議員が主催したパーティーの帰りに襲撃されそうになったのを、リヴァイの機転で未然に防いだばかりだというのに――

「そういえば、新しい仕事はどうだね?」

 茶葉と同じくイギリスの有名ブランド製である陶器のティーカップを口にし、優雅に紅茶を啜るエルヴィン。彼にはこういった束の間の休息を得ることも大事なのだろう。
大統領候補の上院議員となれば、寝る間もないほど仕事が立て込んでいる。あまり付き合いたくもない、パーティーや式典にも顔を出さねばならない。ただでさえ命を狙われているのだ、一歩も外に出さず監禁させておいた方が身を守る方としてはよっぽど楽だがそういうわけにはいかない。リヴァイは窓際に背をもたれ、外を眺めながら考えていた。

「殺す側の方がよっぽど楽だ――」
「フフフ……なるほど、そういうものか。」
「あぁ……ターゲットさえ仕留めればいいだけだしな。誰かを守るなんて仕事は肩が凝って仕方ねぇ……」

 リヴァイは自らの手でわざと肩をさするフリをしてみる。すると今度腕のいいマッサージ師がいるから紹介していると返されてしまう。わかってはいたが、やはりエルヴィンには口では勝てない。

「そういうてめぇの方こそどうなんだ。随分と俺をボディガードにすることに執着していたようだが……」

 いまだにリヴァイはわからずにいた。なぜ、エルヴィンが自分を殺しに来たテロリストをわざわざボディガードにしたのか。

「執着?まぁそうだな……テロリストくらい御しえないようでは合衆国大統領になる器ではないだろう?」
「世界的テロリストNONAMEはエルヴィン上院議員暗殺に失敗して自害の上死んだ――これは表向きの報道だ。」

 だが裏の世界では違う。NONAMEは元の組織を裏切り、テロリストたちの敵となったことは一部では周知の事実。さらにいえば、エルヴィン暗殺は格段と難しくなったというわけだ。

「そう、私は最強のボディガードを手に入れた。これで大統領の椅子への道のりにすべての障害はなくなったといえる。」

 エルヴィンがスッと目を細め、口元を綻ばせる。これは予感ではない、確信だ。この男は宣言どおり次の合衆国大統領になるだろう。

「何でもお前の思い通りってのが気にいらねぇ……」

 悪態をつきながらもエルヴィンを見つめるリヴァイの背筋が震えた。恐怖ではない、これからこの男はどんな茨の道を進むのだろうか――見てみたいという好奇心によるものだった。


  *     *     *


「―――キ、……リヴァイのアニキってば!」

 肩を大きく揺さぶられ、強引に起こされる。朝の眩しい光で視界が眩むリヴァイを純真無垢な顔が覗き込んでいた。

「―――イザベル、か……また勝手に人の寝室に入ってくるんじゃねぇよ……」
「だって……朝食の準備ができたからアニキを呼んでこい、ってファーランが……」

 ぷぅっと拗ねた顔をしているが、視線をチラチラさせているのは嘘をついている証拠だ。ファーランが言い出す前にリヴァイを起こしにきたのだろう。いちいち細かいことを咎める気にもなれず、リヴァイがボーっとした頭のまま、ベッドから上半身を起こした。

「今日は何か予定があったか?」

 ふわぁと欠伸をしながら尋ねると、イザベルは肩から下げた小さなバッグから手帳を取り出し、パラパラと捲る。

「午後二時に依頼主と会う約束になっているよ。こっちに来るって昨晩ファーランのところに連絡あったみたい。」

 別に行事にこだわっているわけではないが、新年早々仕事の依頼とはよっぽど切羽詰まっているのかとも思う。そして何となく厄介ごとに違いないと直感した。

「今回はどんな仕事だろうね。また妻の浮気調査とかだったら面倒くさいなぁ……」
「修羅場なのは当人たちだけで、平和な仕事だと俺は思うがな。」

 率直な感想を述べただけなのだが、イザベルは十七歳という多感な年頃のせいか男女間のいざこざには敏感に反応していた。

「もう!アニキってば他人事みたいに……もし、アニキの好きな相手に浮気されたら嫌じゃないの?」

 リヴァイは脇に置いてあったタバコを咥えて火をつける。煙をイザベルめがけて吐くと、まともに吸い込んでしまったらしく、ケホケホとせき込んでしまった。

「俺にはそもそもそんな相手いねぇから知らねぇよ。」
「え?アニキってもしかしてその歳で恋人いたことないの?」

 よっぽど興味を引く話題だったらしい。イザベルは目をキラキラと輝かせながらリヴァイに迫ってくる。もう一度タバコの煙をかけてやろうかと思ったがさすがに止めることにした。

「―――いなかったら何か支障があるのか?」

 質問を質問で返され、イザベルはうーんと考え込む。現役の高校生であるイザベルの成績はあまり芳しくなく、いつも赤点の補習を受けるか受けないかのギリギリのライン。本人が机で勉強するより、体を動かす方が好きなタイプのせいということもあって、兄であるファーランの悩みどころらしい。

「でもこれから恋人ができるかもしれないじゃない?自分の手で守りたいと思う、大切な人がさ!」

 タバコを吸う息が止まる。守りたい、大切な人――いまのリヴァイにとって禁止ワードだということをそういえば二人には教えていなかったことを思い出す。リヴァイはイザベルの頭を掴み、髪がクシャクシャになるほどに撫でた。

「いった!……痛いってばアニキ!」
「それこそ、こんな仕事をしている俺には不要な存在だ。」

 リヴァイは遠くを見つめながら、口から煙を吐き出す。フワリと浮かんでやがて消えていく。切なげな表情をしていたせいか、イザベルはコクンと喉の音を立てながら何かを呑み込んだ。

「朝メシもうすぐできるんだろ?行くから向こうで待ってろ。」
「でも……アニキ…ぶわっ」

 それでも食い下がろうとするイザベルの顔をめがけて、リヴァイは枕を投げつける。

「着替えるんだよ、それともてめぇ……俺の裸を見たいのか?いい度胸しているじゃねぇか。」

 ようやく察したらしい。イザベルは瞬間湯沸かし器のごとく、顔を真っ赤にさせた。

「わわわわわわごめんなさぁぁぁぁいい!」

 悲鳴に近い大声をあげて部屋を飛び出していくイザベル。やかましいのがやっと出ていったことで、ほぅっと息を吐くリヴァイ。カーテンを開けると、雲一つない冬の青い空がビルの隙間から広がっていた。

「今日もいい天気のようだな……」

 この部屋に引っ越してきてもうすぐ三年になる。
 ここは日本――東京。大昔の仕事で一度訪れたことがあった。人と建物がひしめき合っていて慌ただしい街という印象しかなかったが、紛れて身を顰めるには一番適した場所だった。
 合衆国大統領暗殺未遂事件以降、リヴァイはシークレットサービスの職を辞した。許可を得るべき上司、エルヴィン・スミスはいいも悪いも判断できない植物状態。
あのとき、自分が警護に出ていれば――
 自分が犯したミスに向き合うことに耐えられなく、逃げ出したと言った方が正しいのかもしれない。秘書のナナバも、同じシークレットサービスのミケもリヴァイを咎めることなく、黙って送り出してくれた。
何のあてもなかった。とにかくエルヴィンがいる土地から離れたくて東の果ての島国までやってきたのだ。

「おはようリヴァイ。朝ごはんできてるぞ。」

 ダイニングに行くと、テーブルには綺麗につくられたオムレツ、焼きたての食パン、リヴァイの好きな紅茶がティーポッドに入って置かれていた。

「ファーラン、いつもすまねぇな。」
「イザベルと二人で食べるのも、リヴァイと三人で食べるのも大して変わらない。うるさい妹の相手をしてもらってむしろこっちが助かってるくらいだけど?」
「何だよ、人のこと馬鹿にしやがって!」

 ファーランとイザベルはリヴァイがこのビルに引っ越してきたときに、下の階に住んでいたのが縁だった。ファーランとイザベルの兄妹は両親を交通事故で亡くしたばかり。当時二人が未成年だったこともあり親戚などの引き取り手もない上、親が数百万円にのぼる借金を抱えていたこともあって毎日のように取り立てに追われていた。あまりにうるさい怒鳴り声と物音が下の階から聞こえてきたが、リヴァイは見て見ぬフリをしていた。
 しかしある日、学校帰りのイザベルを借金取りが雇ったと思われるヤクザ風のチンビラたちが待ち伏せしていた。イザベルを借金の肩代わりとして、人身売買に売るために襲い掛かろうとしたところを見かねたリヴァイが助けた。
 それ以降、この兄妹に妙に懐かれてしまった。リヴァイの仕事が訳アリ案件を引き受ける何でも屋であることに、なぜか共感したらしくアシスタントにしてほしいと強く言われた。リヴァイは自分が命を狙われていること、傍にいたら自分たちにまで危険が及ぶと警告をしたものの、毎日のようにしつこく家まで押しかけ、掃除や食事の支度を勝手にする二人を結局拒絶することができなかった。
その後、兄のファーランは奨学金で大学の経済学部に行き始めてから株投資を始め、その儲けで見事に親の借金を返済した。二人はいまだにリヴァイのアシスタント気取りで毎日のように通ってくる。危険が伴わない仕事であれば、リヴァイもファーランとイザベルに頼むようになっていた。

「うんめぇ……!このオムレツふっわふわ!」
「イザベル……お前も女なんだからこれぐらいできるようにならないと嫁の貰い手がつかないぞ?」

 特段の嫌味をこめてファーランが横槍をいれる。確かに、十七歳にもなって口の周りに食べカスをつけているようでは、いまだに彼氏の一人もいないのがバレバレだ。リヴァイは二人の口論を耳にしながら、黙々と食事を口に運んだ。

「なぁリヴァイのアニキ!ファーランの奴酷いと思わねぇ?」
「俺はあまりやかましいのは好きじゃねぇ。イザベル、お前こそ好きな奴でも作ればもっと女らしくなるんじゃねぇか?」

 リヴァイに核心をつかれ、うっと言葉を詰まらせたイザベルはワナワナと震え出す。これ以上怒らせたらますます手がつけられなくなる。リヴァイとファーランは互いに目で合図した。

「イザベル、依頼者が来るのに出す茶菓子がないんだ。【パティスリー・ローゼ】のケーキを買ってきてくれないか。」
「な、何だよ。いきなり……」
「相手は女性客だしな。お前に選んでもらった方がいいだろ?俺たちはケーキの善し悪しはわからないからなぁ。」

 もちろん自分の分も買ってきていいぞ、とファーランが財布から出したお金を渡す。このあたりで有名な【パティスリー・ローゼ】のケーキはイザベルの大好物だ。好きなものを買ってきていいと言われ、どうしてこれ以上文句が言えるだろう。

「わかった!任しておけ!」

 うれしそうにガッツポーズするイザベルに乾いた笑いしか出てこない。それにしても――とリヴァイはファーランが用意した依頼者のプロフィールを目にしていた。

『有名音楽プロデューサーが俺に一体何の用事だっていうんだ?』




「初めまして、私はハンジ・ゾエ。音楽プロデューサーの仕事をしています。よろしく。」

 芸能界の仕事に追われている人間のくせには、化粧も適当で済ませている感じだし、着ている服もブランドものではなさそうだ。これが何人ものトップアイドルを輩出してきた敏腕プロディーサーだというのだからにわか信じがたい。

「リヴァイだ。」

 そっけなく挨拶するリヴァイはハンジにソファに座るよう促す。イザベルとファーランが買ってきたケーキと、淹れ立ての紅茶を持ってきた。

「で、用件は?」

 紅茶の湯気がハンジの眼鏡を曇らす。すっと表情が変わった。

「実は……あるトップアイドルのボディガードをお願いしたい。」

 ピシッと空気が凍りつく。これ以上、話を聞く必要はない。リヴァイは立ち上がった。

「断る――他を当たってくれないか。」
「あなたがボディガードの仕事だけは決してやらないことは、紹介してくれたナイルから聞いている!」

 ナイルは警視庁捜査一課の警部で、リヴァイにいつも困難案件を持ち込んでくる。ナイルの依頼を秘密裏にこなす代わりに日本では規制されている銃の使用を見逃してもらっている。お互いリスクを負いながら、利益を得ている持ちつ持たれつの関係というわけだ。

「ナイルの知り合いなら警察に頼めばいいことだろう?」
「でもリヴァイ、警察に頼んだらそれこそマスコミが騒ぎ出す嵌めになるよ。芸能人としては致命的になるんじゃ……」

 さすがこういったことはファーランの方が事情通というところか。リヴァイは溜息をついた。

「ボディガードなら他にもあてはあるはずだ。ナイルがなぜわざわざ俺を紹介したのかは知らねぇが……とにかく、俺はボディガードの依頼だけは受けねぇと決めている。」
「アニキ……どうしてそんなに頑固なんだよ!」

 ファーランとイザベルには自分の過去のことは話をしていない。ある国で軍隊まがいの経験があると言っただけだ。
 ドンと勢いのいい音がする。振り返るとハンジがテーブルに額をつけて土下座のような恰好をしていた。

「頼む、このとおりだ!エレンはいま大事なときなんだ。不安なく仕事をさせてあげたい……でないとあの子にとって生きる意味がなくなってしまう!」
「エレンて……もしかして、エレりんのこと?」

 イザベルが思いついて聞き出す。報道ニュース以外テレビを見たことのないリヴァイにとって、聞いたこともない名前だった。

「誰だ?それは……」
「あーやっぱり……リヴァイのアニキは芸能関係には疎いなぁ。エレりんといえば、元は男の子なんだけど女装アイドルとして大人気なんだよ?」

 男のクセに女装している?ますますリヴァイにはわからない世界の話だ。イザベルが持っていたスマートフォンで検索した画像を見せてくれた。

「これがエレりんだよ。」
「―――見る限り男じゃねぇか……何でこんなのが人気なんだ?」

 以前自分が暗殺のために女装していたときは、顔立ちもそうだが体も丸みを帯びさせ、女らしい歩き方や仕草まで堂々とこなしていたものだ。だが、エレりんというのはまるで違う。確かに衣装は女の恰好かもしれないが、見かけは無垢な少年そのもの。体は細身でいいのだが、薄っぺらい胸板や貧相な尻を堂々と見せつけられては萎えると思うのだが?

「こういったあからさまなギャップが逆にエレりんの魅力なんだよ。それに歌やダンスもそこらのアイドルより断然上手いんだぜ。この前の年越しカウントダウンライブも行きたかったなぁー」
「俺の大学でもエレりんは人気だぜ?特に男子受けというか……ほら、少し中世的な顔立ちしているだろ?ノンケなのにソッチ方面に目覚めそうだって言ってる奴もいるしな……」

 確かに日本はゲームやアニメを始めとしたサブカルチャーが発展していて世界でも話題だし、アイドルグループを多いとは聞いたことがある。だがこういった奇抜なアイドルは受けるのは日本くらいだろうと思っていた。

「エレンだって最初から好きで、女装アイドルをやっていたわけじゃないんだ。あの子は生い立ちが特殊でね……あの子にはここしか居場所がないんだ……」

 ハンジが視線を落とす。リヴァイはたとえ可哀そうな境遇を聞かされたとしても依頼を受けるつもりはない。だが、イザベルに渡されたスマートフォンに映し出されるエレりんの表情に、なぜか惹きつけられる。リヴァイはちっと舌打ちをしつつ、ソファに座り直した。

「せっかくの紅茶がまだ途中だったからな。飲み終わるまでは暇つぶしに聞いてやる。」

 ハンジの話によれば、エレンとミカサは共に親のいない孤児院施設の出身。ミカサとは違い、エレンは生まれてすぐ孤児院に引き取られたので、親の顔すら覚えていない。

「エレンは幼いときから感情が欠落していた子みたいで……学校でも施設の子と言われて虐められていたんだ。」
「でもなんでそんな子がいきなり芸能界に?」
「十歳のときにもともといた孤児院施設が潰れてね。移った施設がエレンの所属事務所であるピクシス社長から支援を受けていたんだよね。んで、ある日施設を訪問したピクシス社長がエレンに目をつけたわけ。」

 理由は「この子は無限の素質を持っている」だったらしい。それまでマンネリ化したアイドルの低迷時代と言われていたため、普通に売り出してもヒットしないだろうということで、ピクシスの発案により、女装アイドルと筋肉アイドルが誕生したというわけだ。

「ず、ずいぶんと強引だけど……よく本人が引き受けましたね。」
「エレンは自分には生きる価値なんてないって思っていたからね。出会った頃のエレンはある意味、自分がどうなろうとどうでもいいって投げやりな印象だった。」

 生まれながらにして親に必要とされていなかった――そういった現実を突きつけられれば誰でも拗ねた人間になるのもわからないでもない。リヴァイ自身も親の記憶は一切ない。気づいたら銃とナイフを握った手は真っ赤な血で染められていた。
 殺さなければ、自分が殺される――いつも死と背中合わせにしていたリヴァイからすれば、生温い環境で何を言ってやがるんだと叱りつけたいところだが、そういった過去に感情が欠落していた人間がいまや周囲から注目されるトップアイドルになるとは――リヴァイはますますエレンに興味が沸いてきた。

「いまのあの子は芸能界にいることで自分の存在価値を見出している。自分が必要されている、求められているって実感できている。だから素晴らしいパフォーマンスができる。プロデューサーの私から見ても、稀な天賦の才を持っている子なんだ。」

 だから頼むと再びハンジに頭を下げられてしまう。やはり聞くんじゃなかったとリヴァイは自分の甘さを後悔した。

「これだけは言っておく。引き受けるからにはきちんと仕事をこなすつもりだが、守りきれるかどうかはこいつが俺の言うことを聞くか、聞かないかにかかっている。」
「じゃ……じゃぁ……引き受けてくれるの?」

 よっぽど強くテーブルに押し当てていたのか、額を真っ赤にしながら、ハンジが顔を上げる。何とも間抜けな面だと鏡で見せてやりたくなる。だが、いくら仕事でこれから付き合わなければならないとはいえ、馴れ合うつもりはなかった。

「俺の言うことを大人しく聞く――これが絶対条件だ。」


 エルヴィンを守り切ることができなくなったリヴァイは、しばらくの間魂の抜けた人形のようだった。もう二度と、人を守る仕事など御免だと思った。

「やはり俺には誰かを守ることなんて不向きだったんだ……エルヴィン、お前は俺のことを買い被りしすぎだったんだよ。」 

 日本に発つ直前、エルヴィンに最後の別れを言いに来たときに打ち明けたリヴァイ。これを聞いたエルヴィンはどう答えたのだろうか?だが、当然返事が返ってくるわけでもない。

「お前に与えられた命は無駄にはしねぇよ。じゃぁな、エルヴィン。」

 そう言ってリヴァイはエルヴィンのいる病院を出ていく。もうすぐ冬になろうとしている空はいまにも泣き出しそうなどんよりとした厚い雲に覆われていた。

「さて……これからどうするべきか……」

 職を失ってしまったリヴァイだが、以前のようなテロリストに戻る気は毛頭ない。

「結局俺にはこれしかねぇんだよな……」

 リヴァイは愛用の銃を取り出す。いまからまともな社会人になれるわけもない。それに、組織を裏切ったリヴァイの命を狙ってくる輩もまだいるかもしれないのだ。
 戦うための技術、そして銃を手放すわけにはいかないのだ。

「だったらこれを活かした仕事をするしかねぇか……」

 どこの世界にも表があれば裏がある――依頼を受ければ引き受ける、いわゆる何でも屋稼業をリヴァイは始めることにした。以前から懇意にしていた情報屋にリヴァイの噂を流すと、すぐさま依頼が来るようになった。
 危険な荷の運びから裏組織の潜入調査や密輸売買のアジトのせん滅、時には夫婦の浮気調査やいなくなった猫の捜索など、何でもこなすようになっていた。

「この俺が……まさかボディガードの仕事を引き受けるとはな。」

 正直言ってなぜあのときハンジからの依頼を引き受けてしまったのが、自分でもよくわからなかった。恐らく、イザベルに見せてもらったエレンの画像と、ハンジから聞かされてエレンの境遇に興味が沸いた――もっと言うのであれば違和感を感じた。
 この違和感は何なのか――会って確かめてみたい、と思ってしまったのだ。だが数日経ち、エレンと引き合わせる日にちが迫るにつれ、後悔し始めていた。

「アニキ、一人で大丈夫?」

 表情に出てしまっていたらしい。イザベルが心配そうな声で近づいてきた。

「おいイザベル、お前はただついていきたいだけだろ?撮影スタジオだったら有名人がいっぱいいそうだもんな?」

 ファーランがニヤニヤしながらイザベルの図星をつく。イザベルはいつものように瞬間湯沸かし器になってファーランに食ってかかった。

「べ、べつにそんな下心ねぇよ!馬鹿にするな!」
「俺のことなら別に平気だ……それよりお前ら学校だろ。早くしねぇと遅刻しちまうぞ?」

 二人に早く行くよう促して、リヴァイは愛車に乗り込む。ハンジからの連絡によると、今日はスタジオで新曲PVの撮影があるらしい。大晦日の年越しライブ以降、特に異変はないようだが、エレンは口に出さないまでも気にしているようだ、ということだった。
 事件のあったライブ当日の状況について、ハンジを介して情報提供してもらった。しかし、警察が介入していないためあまり詳細を得ることはできなかった。

「監視カメラシステムのダウンか。功名な手口でウイルスに感染させたんだろうな……」
「正確な時間にダウンさせるウイルスってことか……」
「そう。コンピューターのちょっとした知識があれば、そういったウイルスなんて簡単に作れるしね……でも、システムだって丸裸ってわけじゃない。何重ものセキュリティがかかっているはずだ。」

 犯人はかなりコンピューターに詳しい者だとファーランが推測する。

「もしかしたら相手は一人じゃないのかも。複数か、もしかしたら組織的な犯行かもしれない。でもそんな大がかり準備をしている割にはやっていることが幼稚なんだよなぁ……」

 確かにファーランの言うとおりだ。厳戒なセキュリティを突破し、システムダウンさせた上で、ライブ中のエレンの控室に忍び込み、やったことといえばただ部屋を荒らしただけ。それに、アンコール中にエレンを狙い、頬を切ったかまいたちまがいの案件についても結局正体はわからず仕舞い。事態は行き詰っていた。

「こいつは……面倒くさそうだな………」

 溜息をつくリヴァイの視界に大きな建物が見えてくる。住宅街の中で突如現れたガラス張りの建物は、つい最近できたばかりの都内屈指の撮影スタジオ。駐車場にはたくさんの車が停まっていた。
 車を降り、スタジオの中へと入る。建物の三階くらいまでの高さが吹き抜けになっていて空間の広さを感じる。全面ガラス張りのエントランスホールの正面にある受付へリヴァイはまっすぐに向かった。

「リヴァイだ。ハンジ・ゾエと約束を取りつけてある。」
「リヴァイ様ですね、お聞きしております。この先にありますAスタジオになります。」

 丁寧に場所を説明されたリヴァイはAスタジオへと歩いていく。今日は撮影が多いのか、やたらとスタッフやら役者やらが行き交っていた。大きくAスタジオと書かれた扉が見えてくると、その前にハンジが立っていた。

「あーこっちこっち!」

 リヴァイを見つけたハンジが大げさなまでに手を振っている。見るからに上機嫌だ。

「いやーよかった。もしかしたら来ないんじゃないかって心配していたんだよ~」
「一度引き受けると言ったんだ。よっぽどのことがねぇ限り依頼を反故にするのはクズのやることだ。」

 いままで受けた依頼はすべて成功させてきたリヴァイにとって、ある意味ポリシーになっていた。

「うちのアイドルもやっと準備が終わったばかりなんだ。撮影開始までまだ時間はあるから挨拶しておこう。」

 ハンジは陽気な声でリヴァイをキャスト控え室に連れていく。今日は来月発売するソロシングル新曲PVの撮影らしい。正直興味がないリヴァイはくどいまでにPVの内容を説明するハンジの言葉を耳から耳へスルーさせていた。

「エレーン!いいかな?」

 ノックもせずにいきなりドアを開けるハンジ。エレンはちょうど鏡の前でポーズの確認をしていた。
 男とも女とも似つかわしくない、中性的な肉体はまだ十六歳という、子どもから大人へと変わる途中過程だからか。無垢とも成熟とも違う、危うさを兼ね備えている。アラブのイメージなのか、褐色の肌に薔薇のような赤い唇はとても男には見えない、男を誘惑する踊り子のような恰好。細くて長い手足にはシャランと綺麗な音がする、飾りがつけられていた。

「……っと、ちょっと?大丈夫?」

 ハンジに肩を揺さぶられ、リヴァイはエレンに魅入ってしまっていたことに気づかされてしまう。

「あぁ……すまねぇ。」

 リヴァイは頭を切り替えてもう一度エレンを見たものの、エレンが醸し出すフェロモンのようなものは周囲を虜にする危険なものだと直感した。リヴァイも何度か仕事でインド方面に行ったことがある。夜の繁華街では酒をたしなむ男たちを楽しませるため、踊り子たちがよく舞を魅せていたのを思い出してしまう。だが、リヴァイが見たどの踊り子たちより妖しい美しさをエレンは持っていた。
 新曲のテーマは「少年花嫁」だと、さっき歩きながらハンジが言っていた。何頭のおかしいことを言ってやがるんだ?と反吐が出そうになった数分前の自分をぶん殴ってもいい。人を殺すことに長けているせいか、人間観察をすることを得意としているリヴァイでも惹きつかれるものがあった。

「何だ……ハンジさんか。脅かさないでくださいよ……」

 突然の訪問者に吃驚したエレンは、ハンジだったので安堵の表情を浮かべていたが、すぐ後ろにいたリヴァイの姿を見て一転、怪訝なものへと変わっていく。警戒心があるのはいいことだ、とリヴァイは感心した。

「この前話をしておいたでしょ?こちらが今日からあなたのボディガードをしてくれるリヴァイさんだ。」

 空気を読むのが下手なのか、それともわざとなのか。ハンジはリヴァイをエレンの前に紹介する。エレンの顔がますます曇っていくのは、横にいたマネージャーのモブリットもすぐにわかった。

「ボディガードは断ってくださいとあれほど言ったじゃないですか、ハンジさん。」

 エレンはリヴァイから視線を逸らしながら、文句を言う。それでもリヴァイのことが気になるのか、チラチラとした視線を感じた。

「エレン、それはもう何度も話したでしょう?これ以上身の危険が迫るようなら、仕事をさせられないって。あなただけじゃない。ミカサまで巻き込まれる可能性だってゼロじゃないんだ。それは本意じゃないでしょ?」

 悔しそうにエレンはキリっと唇を噛む。ジッと観察しているリヴァイを、鋭い黄金色が睨みつけてきた。

「ボディガードだなんていうからどんなに屈強な大男かと思っていたけど……」

 エレンはパイプ椅子から立ち上がり、モデルのような歩き方でリヴァイのところへ近づいてくる。ちょうど目の前で足を止めた。

「オレより背が低いし、随分と小柄じゃないですか。この人が本当にオレのことを守れるっていうんですか?」

 リヴァイの身長は百六十センチ程度。一方のエレンはまだ十六歳だが百七十センチをゆうに越そうとしている。エレンは身長差を魅せつけながら、フンと鼻で笑う。
 なんともわがままなクソガキだ――思わず口からポロリと出そうになったのを何とか呑み込む。出会ったばかりの頃のイザベルよりタチが悪そうだと胸の内でぼやいた。

「守れるか守れないかはお前次第だ。」
「何それ……?自分の未熟さをオレに責任転嫁するの?」
「ハンジに言っておいたはずだ。俺の言うことを聞くことが絶対条件だと。勝手なことをされたら保障はしねぇからな。」

 やはりイザベルの顔が重なる。これは明らかにムッとした顔だ。イザベルのおかげでガキの扱いは慣れているつもりだが、決して仲良くはなれないタイプだ。

「聞けないというならこの依頼はなかったことにさせてもらう。ガキのわがままに付き合えるほど暇じゃねぇ。」
「エレン……お願い、この人の言うことを聞いてちょうだい。」

 ハンジが顔の前でパンっと音を立てて両手を合わせ懇願する。リヴァイの高圧的な態度に委縮することもなく、エレンははぁっと長い溜息をついた。

「オレにはこの仕事しか残ってはいないから。わかりましたよ、よろしくお願いしいます。えっと……」

 イヤイヤながらも頭を下げてくるエレン。それほどまでにトップアイドルという座にしがみついていたいものなのか。リヴァイには理解ができなかった。

「リヴァイだ―――」
「よろしくお願いします。リヴァイさん……」

 ようやく和解してくれた二人に、ハラハラしながら見守っていたハンジとモブリットが同時に胸をなでおろしていた。

「撮影準備整いました、よろしくお願いします!」

 ちょうどタイミングを見計らっていたのか、女性スタッフが明るい声をかけてきた。

「よし、エレン……いや、エレりん、出番だよ!」
「はい、わかりました。」

 さっきまで散々我儘を言っていたクソガキとは違い、表情が一変する。リヴァイが変装するときもそうだが、スイッチが入るというのはこういうことなのかもしれない。エレンは一瞬のうちにテレビで見ていたアイドルの顔へと変わっていた。

「あぁ、そうだ。言い忘れていた。」

 ハンジの後を追って横を通りすぎようとしたエレンをリヴァイは呼び止める。

「え?」

 リヴァイの拳がエレンのさらけ出されたみぞおちにコツンと軽くあたる。エレンは防御姿勢を取る余裕すらなく、何が起きたのかまったくわからずキョトンとしていた。

「フン……隙だらけだな。」
「あ………」
「背が小さいっていうのはな、相手の懐に飛び込みやすいという利点もあるんだ。よく覚えておけよ?」

 悔しいのか唇を震わせ立ち尽くすエレンをハンジが遠くから呼んでいる。ハッと我に返ったエレンはチラチラとリヴァイに視線を送りながら走り去っていく。頬がやや赤く染まっているのは、気のせいではないようだ。リヴァイもすぐに撮影スタジオへ向かった。
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