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スパーク新刊「恋の続きは深夜のオフィスで」

2016.10.9 COMICCITYSPARK新刊
恋の続きは深夜のオフィスで
A5/100P/900円/R18
sampleとら

東6も09a Mikeneco Cafeにて頒布します。
また、16日の壁博11でもハ36aにて頒布します。

リーマンパロシリーズの再録。
プロローグと最終章が書き下ろしです。30P程度。その他再録部分も改編、追記しています。

【あらすじ】
 就活中の大学生エレンはバイト先のカフェでエリートサラリーマンのリヴァイと出会う。
 エレンの淹れる紅茶をやたらと気に入ったリヴァイはカフェに通い出す。幼い頃から憧れだった医者になる夢を諦めたエレンは就職活動は最終面接まで行きながらなぜか不採用続き。
 そんなエレンにリヴァイは「お前とは仕事をしてみたいとは思わない」と突き放す。ショックを受けたエレンだったが、後になってリヴァイの言葉の意味を理解し、ついに最後の面接で就職を決める。
 それはなんとリヴァイが勤める会社であり、直属の上司になることに……
 新入社員として頑張るエレン。憧れの上司として慕っていたリヴァイに、ある日不意打ちでキスをされてしまい無自覚だった自分の気持ちに気づいてしまい……
 

とらのあな予約→コチラ


サンプルはとびとびです。R18部分は自己責任でお願いします。 プロローグ



 エレン・イェーガーは都会の喧騒から離れた自然豊かな土地で暮らす開業医の一人息子。厳しいながらも包容力のある父・グリシャ、明るくて陽気な母・カルラに愛されながら伸び伸びと育った。
 幼い頃からずっと父親の仕事を見てきたため、自分も医者になることを目指し、東京の有名国立大学の医学部を希望したが受験に失敗、夢を諦めて私立大学の経済学部へと進学した。落ち込むエレンを両親は少しも責めようとはしなかった。

「エレン、あなたはまだ若いのよ?将来の選択肢は無限にあるの。」
「母さん……」

 それでも愛情たっぷり育ててくれた両親に対する申し訳ないという気持ちが拭いきれず、生活費の仕送りはいいからと言って実家を離れ一人暮らしを始めることにした。だが、世の中はそんなに甘くはない。
 都心にある大学まで電車を使って一時間はかかる郊外のボロアパートに居を構えたエレンは日々の生活費を稼ぐために、カフェでアルバイトを始めた。立ち並ぶオフィスビルの中心に構えるこのカフェは、優しい木目を基調とした内装でどこか懐かしい、安心感を覚える。近くで働くサラリーマンやOLが仕事の息抜きとして使われているので常連客も多い、人気の店だ。

「いらっしゃいませー!」
「あら、エレン。今日のおすすめは何かしら?」
「マンダリンです。新しい豆が入っていますよ。」

 長い髪を綺麗にまとめ、控え目な化粧をした三十代くらいのキャリアウーマン風の女性はここの常連の一人で、週に三日はやってくる。女性はニコっと微笑みながらエレンの薦めたコーヒーを注文した。

「マスター、マンダリン一つ、注文が入りました。」
「おう、エレン。先にできたトーストセットを二番のテーブルに持っていってくれ。」

 マスターのハンネスは夫婦でこのカフェを経営していたのだが、三年前に妻が出産の時期に入り、ウェイターを募集していたところをたまたま大学帰りにやってきたエレンが見つけたのだ。物覚えも早く、手際のよさと、愛想のよさでいまではエレン目当てでやってくる客もいるほどだ。

「そうだハンネスさん。明日、また面接があるので夕方からでもいいですか?」
「もちろんだとも。がんばってこいよ。」
「ありがとうございます。」
「明日はどこの面接なんだ?」
「カラネス広告代理店です。結構難関だって聞いたのでまさか面接まで進めるとは思っていなかったんですけど……」

 エレンはぎこちなく笑いながら視線をさまよわせた。大学三年の後半ともなると就職活動が始まる。経済学部に進んだものの、いまだ自分の将来設計を描くことができないままこんな時期になってしまった。就職先が一生を左右するかもしれない人生の転換期だというのに、虚無感に陥るのはやはり医学部へ進めなかったからに違いない。
 だからなのかエレンは応募したすべての会社の最終面接で落ちてしまうのだ。大学四年の夏、周囲には内定も決まり浮かれ気味の者もいるのに、どうも積極的になれずにいた。

「もしオレの就職先が決まらなかったら、ここで雇ってもらってもいいですか?」
「何を言っているんだエレン。お前は若い。こんなしがないカフェでなくてもやれることはあるだろう。」

 気を落とすなとハンネスが背中を叩く。咳込みそうな強さに顔をしかめたものの、とりあえず笑顔を取り繕うことにした。
 カラン――ドアの開く音がし、エレンが反射的に振り向くと一人のサラリーマンが入ってきた。

「いらっしゃいませ!お一人ですか?」
「あぁ……」

 ちょうど昼休みどきということもあってテーブル席は満杯になっており、エレンは男性をカウンター席に案内した。

「ここはコーヒーしかないのか?」
「いいえ。紅茶もいろんな茶葉を用意していますよ。女性客も多いのでハーブティーなんかが人気です。」

 どうりで見かけたことのない客だと思いながら、エレンはメニューを開いて紅茶のページを案内する。もともとコーヒー好きなハンネスが趣味で始めた店だが、若い女性客も者も多くいるオフィス街だからとハンネスの妻の提案で紅茶もメニューに取り入れた。エレンが淹れる紅茶はハンネスの妻仕込みなので、美味しいと常連客には好評を得ていた。

「ダージリンをストレートで。」
「かしこまりました。」

 棚にあるいくつもの紅茶の缶からダージリンの茶葉を取り出し、手際よく準備する。皺一つない濃紺ストライプの入ったスーツとシンプルながらも高級感のある腕時計は海外ブランド物だと容易に想像がつく。背はエレンより低いが濃い灰色の鋭い瞳と端正な顔立ちは、男のエレンでも見惚れてしまうほどだ。見たところ指輪もしていないし、独身のエリートサラリーマンというところか。エレンはカフェでアルバイトをするようになってから、人間観察の目が肥えてきていたのだ。
 注文を受けて十五分程、エレンはティーポッドと温めたカップを出し、目の前で紅茶を注ぐ。美しい琥珀色、程よい紅茶の香りが鼻をくすぐると、男性客はほぅっと感嘆の息を漏らす。

「どうぞ、ダージリンです。」

 やや緊張した面持ちで、エレンは男性客の反応を窺う。長い指でカップを手に取り、コクリと口にしてからふっと息をついた。

「―――お前がこのマスターなのか?」

 予想外の質問にエレンは虚を突かれて驚いてしまう。男性客の目の色が興味深げに変わっていく。

「いえ、オレはただのバイトです。まだ学生ですし……」
「ということはいつもここにいるわけじゃねぇんだな?」
「そうです。授業があるときとか、あといまは就職活動中なので、いないことが多いですけど……」
「それならお前のシフトを教えてくれねぇか?」
「え?ど、どういうことですか?」

 エレンもここのバイトを始めて三年――これまでいろんな客を見てきたが、初対面でいきなりシフトを教えろなどと言われたのはもちろん初めてだった。

「俺は紅茶にはうるさい方だ。こういった喫茶店の紅茶も飽きるほど飲んできたが、どれもまぁそれなりってやつだ。だがお前の淹れた紅茶はまた飲んでみてぇ…そう思った。」

 エレンは丸くした目をパチパチとさせる。つまりは褒められているのだと時間をかけて理解する。

「あ、ありがとうございます。今週だったら………」

 少し変わった人だなと思いつつエレンがバイトの予定を伝える。男性客は淡々とした表情で、持っていたスマートフォンに予定を入れ、あとは他愛のない世間話をして帰っていく。見送るエレンの背後からハンネスが声をかけてきた。

「随分親しげだったが、エレンの知り合いか?」
「い、いえ違います。初めてです。どうもオレが淹れる紅茶を気に入ってくれたみたいで……」

 カウンター席の客は向こうから話かけてきた場合のみ、エレンは差しさわりのない程度に話し相手をする。さっきの男性客の入ってきたときの印象は気難しそうだったので、こうも話やすいとは思ってもみなかった。年齢も少なくとも十歳以上は離れているだろうに、僅かな時間ながら楽しかった――就職活動のことでモヤモヤしていたエレンの胸がフワリと軽くなるのを感じた。


 それからというもの、例の男性客はエレンがいる時間にやってくるようになった。いつも頼むのはストレートの紅茶。どうやらエレンの淹れる紅茶のことがよっぽど気に入ったらしい。
 リヴァイ・アッカーマンと名乗る男性客はこのカフェからすぐ近くにある会社に勤めているらしく、昼休みや出張帰りの合間を狙ってカフェに通ってきてくれる。そしてリヴァイはいつも一番奥にあるカウンター席に座り、エレンと話をしながら紅茶を飲んでいた。よっぽど忙しいのだろう。いる時間はほんの三十分程度だが、エレンもいつしか気構えなく、リヴァイと話すようになっていた。

「そういえば……もう就職は決まったのか?エレン。」

 エレンは頭を掻きながらハハハと乾いた笑いでごまかそうとする。いま一番してほしくない話題だった。

「いつも最終面接で落ちちゃうんですよね、オレ……」

 これまで何社受けたのかさえ覚えていない。どれも最終面接まで行って、もらう通知は【不採用】ばかり。ここまで来ると、どこにも就職できないのではとエレンは諦めムードになっていた。

「最終面接まで行くのに落ちる……お前、その原因を自分でわかっているのか?」

 あらためて他人から問われると言葉に詰まってしまう。話題を逸らそうにも、リヴァイの鋭い瞳がエレンを捕らえていて逃げ場を失ってしまっていた。

「最終面接は判断力、コミュニケーション力、決断力仕事をするのに必要な能力はほとんど同じレベルの人間が残される。毎回お前がそこまで残るってことは、仕事をするには十分な資質を持っているということなのだろうな。」
「だったら……どうして……」

 リヴァイはニッと口の端を吊り上げ、冷めかけの紅茶が入ったカップを運ぶ。ゴクリと飲み込む音がする。エレンはリヴァイのしなやかな動作から目を離せずにいた。

「わからねぇのか?ならお前はこの先どこを受けても【不採用】だ。時間の無駄だから就職活動なんかやめちまえ。ここでずっと紅茶を淹れていた方がまだマシだ。」

 その口調がどうも馬鹿にされているようで。さすがのエレンもムッとした顔を表に出してしまった。

「そんなわけにはいかない――オレは……!こんなオレのことを支えてくれる人に恩返ししないといけないのに……」

 医者になる夢を諦めながらも四年間大学に通わせてくれた両親に、どこにも就職できなかったなんて言えるわけがない。合わせる顔もなくこっちに来てから一度も帰省していない親不孝者を叱ることもなく、エレンの両親は陰ながら見守ってきてくれたのだ。
 とはいえいまは接客中。感情をぶちまけるわけにはいかない。俯き、握った拳を震わせて耐えるエレンを、リヴァイは肘をつき観察するように見上げ指を差す。

「お前に足りないのは、その会社に入りたいっていう意気込みだ。」
「意気込み……ですか。」

 もちろん薄々感づいてはいたが、会ってまだ数回のリヴァイの心の奥底を覗かれた気分だ。しかし、嫌悪感というより恥ずかしさがこみ上げてきて、耳まで真っ赤にしたエレンはますます顔を上げられなくなる。

「俺はな、エレン。お前の淹れる紅茶をとても気に入っている。」
「ず、ずいぶんと話が飛びますね……」
「紅茶を淹れるのはとても難しい。茶葉の量や、湯の温度、蒸らすタイミング……その日の気温によっても味や香りはガラリと変わってしまうデリケートな飲物だ。俺がお前の元に頻繁に通うようになったのは、そんな難しいもんをいつも美味く淹れることができるからだ。」
「それとオレの就職活動とどう関係があるっていうんです?」
「お前は物事の本質を理解し、それが最適な状態で提供されるよう勘を働かせることができる。ついでに初対面の俺にも会話しやすいコミュニケーション能力も備わっている――仕事をする人間としては申し分ない人材だ。」

 リヴァイの目の奥にキラリと鋭い光が放たれた。

「だが俺はお前と仕事をしてみたいとはちっとも思わねぇな。」

 遠慮のない物言いにグサリと心臓に杭でも打たれた気分だ。生まれて二十一年、こんなにもまともに傷つく言葉をかけられたことのないエレンにとってショックは計り知れないほど大きかった。

「それは……オレに熱意が足りないってことですか?」
「そういうことだ。いくら能力があっても熱意がなければ困難には立ち向かえない。新たなチャレンジをするにはリスクが高すぎる。」

 エレン自身、いつまでも学生の気分でいられないのは重々承知している。だが就職先を決める際、夢を描き切れていないせいかあらゆる業種の会社を申し込んでみたが、ぜひとも入ってみたいと心動かされるものはどれ一つなかったというのが正直なところだ。

「熱意のない奴は困難に直面したとき脆くも駄目になりやすい。そんな奴と仕事をするのはごめんだ。」

 財布からピッタリの小銭を出し、呆然とするエレンに見向きもせずリヴァイは店を出ていってしまう。幸い、客の少ない時間帯でよかった。途中から様子を見ていたハンネスがエレンの傍に駆け寄る。

「大丈夫か?エレン―――随分キツイことを言われていたようだが。」
「えぇ……でも、全部本当のことだから何も言い返せないですよ。」

 ハンネスも元はサラリーマンなだけに、エレンを励ます言葉が見つからないようだ。今日はもうあがっていいと促され、エレンはハンネスの好意に甘えることにした。

「オレが熱意を注げるような仕事……あるんだろうか。」

 深い溜息をつきながら夜空を見上げる。実家ならいっぱいに星々の海が広がっていたというのに、ここでは街の明かりによってかき消されてしまっている。晴れない気分のまま、一時間かけて電車に乗りアパートに辿りつくと郵便受けのところに新聞が入っていた。

「あれ……また間違えたのかよ……」

 実はつい最近引っ越した、面識のあまりない隣の部屋の老夫婦が新聞の解約手続きをしていなかったようで、時々エレンの部屋の郵便受けに入っていることがある。最初のうちは連絡していたのだが、もう面倒になってきた。新聞を取り出すと、一緒に入っていたと思われる一枚のはがきがひらひらと足元に落ちた。

「――母さん……」

 住所と自分あての名前が書いてある字を見ればすぐにわかる。エレンの母・カルラは連絡もしてこない放蕩息子にこうして時々はがきで近況連絡をしてくれる。家の前で撮られた二人の写真――見ない間に父がかけていた眼鏡が変わっていること、母は若作りに勤しんでいるようだが少し目元に皺ができていること――エレンにとっては時間の流れを痛感させた。

『今年も畑で美味しい野菜が収穫できました。今度送るから残さず食べるように――』

 たったそれだけの文章なのに様々な想いと温かみを感じる。決してエレンのことを聞き出そうとはせず、自分から言うのを待っているその優しさに、胸が抉られそうになった。

「ごめん……父さん、母さん―――」

 涙腺から溢れ出すものを止めることができない。視界が一気に滲みだし、エレンは玄関先でその場に崩れ落ちた。
 このまま家に帰ったら両親は温かく迎えてくれるかもしれない。バイトのノウハウを活かして実家の近くでカフェでも開けば、それなりに楽しい人生を送れるのではないか――思いを巡らすエレンの目に新聞のある記事が留まった。

「―――これリヴァイ……さん?」

 何度瞬きをしてもそこには知った顔が映っている。切れ長の目、まっすぐに伸びた鼻、引き締まった唇……間違えるはずもない。そして写真の横にはリヴァイ・アッカーマンと書かれていた。
 読んでみると、「ウォール商事」の特集記事だった。もともと海外からの輸入品を取り扱うワンマン企業だったが、ここ最近の世界的な金融不安のせいで円高が進み、経営が危うくなっていたところを十年前にエルヴィン・スミスが社長に就任したことで古い体質だった経営方針を刷新し、製品開発やサービスの導入など手広い戦略を展開、あっという間に世界の名立たる企業ベスト5に入るほどに急成長した。エレンたち就職活動をしている学生の中でも人気の企業だった。

「リヴァイさん……ウォール商事の人だったのか………」

 特集記事は経営再建の立役者である社長のエルヴィンと片腕と言われている営業部部長リヴァイへのインタビューだった。エレンはいつのまにか夢中になって記事を読んでいた。エルヴィンの遠くを見据えたビジネス戦略、周りに無理難題と言われても必ず実現させるリヴァイの手腕。この二人がいたからこそいまのウォール商事の成長があるという内容だった。
 記事の最後に、リヴァイにこれから未来を歩む若者に一言という質問があった。

「困難だからといって無理だとは思わない。最初から腰が引けていたら何もできない。」

 カチャリ――エレンの胸の奥で鍵が開けられる音がした。

「失敗を糧にしてチャレンジする気持ちを忘れないでほしい――」

 まるでエレンに向けられたメッセージのように思えたのは気のせいだろうか?
 頭から冷水をぶっかけられた気分だった。ポツリと零れ落ちる涙が新聞に書かれた字へと滲んでいった。
 小さい頃からあこがれていた医者にこだわりすぎて、自分が見えなくなってしまっていたエレンの頑な心をリヴァイがいとも簡単に解いていく。
 心を真っ裸にされたエレンのスマートフォンがブーンと振動した。何事かと思い見てみると一通のメールが届いている。件名を見たエレンは目を大きく見開いた。

 件名 最終面接選考のご案内
          
         差出人 ウォール商事(株)人事部採用担当




 始まりのバースデー

 エレンはこの春、大学を卒業してウォール商事に就職した。ウォール商事はあらゆる製品開発とサービス展開を繰り広げてこの数年で急成長した大企業。何十倍という倍率を潜り抜け、さらにその中でも一握りのエリート候補のみが配属されるという営業部に配属された。
 大学時代にカフェでアルバイトをしていたとはいえ、初めての社会経験。覚えることが多くて最初は翻弄されてばかりだったが、同じチームのエルドやグンタ、オルオとペトラに支えられながら、ようやく一人で仕事を任せられるようになってきて、採用から半年の試用期間が終了する頃には自信もついてきた。
 だが、人間気が緩むとどうしても隙ができてしまうらしい。
 ちょうど三週間前のこと。エレンは仕事で大きな失態をしでかしてしまった。しかも原因は発注数を間違えるという単純なもの。そのため得意先が主催したイベントで販売する予定の商品が圧倒的に足りず、問い合わせが来たことで発覚したが、幸い別の倉庫にあった在庫をイベント当日の朝に運んだことで事なきを得た。
 エレン一人だったらとても対応しきれなかっただろう。これも先輩であるエルドやグンタたちがうまくフォローをしてくれたおかげといえる。取引停止まではいかなかったが、それでも相手の印象をかなり悪くしてしまったのは確かだった。

「エレン、もう無理しなくていいのよ。」
「そうだぞ、エレン。そろそろ帰らないと終電無くなるぞ。」

 帰る支度を終えたオルオとペトラが声をかけてくれる エレンは二人に心配をかけないよう、明るい笑顔を振りまいた。

「本当にありがとうございます。あともうちょっとで終わるので、そうしたら帰りますから、先輩方はどうぞお先に――」
「そう?だったらあまり無理しないでね、エレン。」

 オルオとペトラはまだ何か言いたそうだったが、早くしないと電車に乗り遅れますよとやんわりと促す。いまはそういった気づかいが逆に辛かった。二人の背中を見送ったエレンは肩の力をようやく抜いた。さすがに日づけが変わる時刻ともなるとただ広いオフィスにはエレン一人しかいない……はずだった。

「あれ?」

 エレンは自分の席があるエリア以外に一箇所だけまだ明りがついている場所があることに少なからず驚く。しかもそこはリヴァイがいるはずの部長室の部屋の明りだった。

「誰かが消し忘れたのかな?」

 エレンが明りを消そうと部長室のドアを開けると、部屋の中央にあるソファでそこにいるとは思っていなかったリヴァイがなんとうたた寝をしていたのだ。

「え?リヴァイ部長―――?いつのまに帰っていたんだ?」

 リヴァイは今日、エレンが迷惑をかけた得意先へ謝罪に行っていたはず。相手がなかなか納得せず、時間がかかりそうだと夕方エルドが愚痴をこぼしていたのを耳にしていた。その後、リヴァイとエルドが出ていくのを見かけていた。
 リヴァイにまで自分のミスの尻拭いをさせてしまった。単純なミスをしでかす自分に、リヴァイはさぞかし呆れていることだろう。
――失敗を糧にし、チャレンジする気持ちを忘れるな
 リヴァイの言葉が折れそうになるエレンの心の支えになっていた。エレンは深呼吸をし、もしリヴァイが起きたら今回の件をまずは謝罪をし、お礼を言おうと決意した。

「リヴァイ部長……そんなところで寝ていたら風邪をひきますよ?」

 遠慮がちに声をかけるが、リヴァイは腕を組んだままソファにもたれスーッと静かな寝息をたてている。よっぽど疲れているのだろう。それが自分のせいだと思うとなおさら申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
 エレンは足音をたてないようリヴァイの元に近づく。普段は眉間に皺を寄せて厳しいことばかり言うリヴァイの寝顔はエレンも驚くほどに穏やかだ。

『あ……なんか可愛いかも……』

 仕事のときのトレードマークの一つでもある眼鏡はデスクの上に置かれている。リヴァイの無防備な寝顔を貴重かもしれないと思うと、胸の奥がトクンと一度だけ鼓動が刻まれた。
 エレンはリヴァイの肩を揺さぶって起こそうと、躊躇いがちに伸ばした手があと数センチで届くというところで止まってしまった。

『多分オレのせいで疲れているんだろうし、もう少しだけこのままにしておくか―――』

 確かリヴァイは自家用車で通勤しているはずだから、電車の時間を気にする必要はないはず。仕事が終わり片づけをしたらあらためて起こしに来ることにして、身を翻そうとしたエレンの手首が掴まれた。

「――――ン……」
「え―――?」

 名前を呼ばれた気がした?振り向く間もなく、強い力で引っ張られエレンの体はリヴァイの胸に受け止められていた。さっきまで寝ていたと思っていたのに、驚くエレンが瞼を開けるとすぐ目の前にリヴァイの顔が迫っていた。

「っ―――――――!」

 あっという間の出来事で何が起きたのかエレンの思考が追いつかない。 ただ一つ確かなのは、唇に触れる柔らかで温かな感触はリヴァイの唇だということだった。
 エレンは全身を強張らせ、まるで金縛りにでもあったかのように動けずにいた。

『こ、これ……オレがリヴァイ部長と、キ、キス―――?』

 ようやく状況を理解すると、今度は羞恥心で全身に火が点き始める。エレンの動揺を察したのか、掴んでいた手の力が緩むとエレンは反射的にリヴァイの身体をドンと跳ね除けてしまう。

「ん――――」

 寝ぼけているようなリヴァイの声。エレンはリヴァイの表情を伺う余裕もなく、部長室を飛び出す。作業途中だったパソコンもそのままに会社を飛び出し、ほとんど人のいない駅までの道のりをまっすぐに駆け抜け、間に合わないと思っていた最終電車に乗り込むことができた。落ち着こうとすればするほど、残っている唇の熱と感覚がさっきのことを思い出させる。

『ど、どうして――リヴァイ部長が………』

 乱れた息がなかなか収まることがない。頭が混乱してグチャグチャになっていく。週末の最終電車ともなると、酒に酔ったサラリーマンも多い。顔がやたらと赤いのも、息が荒いのも酒を飲んだせいだろうとエレンを目にした周りの人間がそう思っているのならそれでもかまわない。エレンの身も心もリヴァイでいっぱいになろうとしていた。
 リヴァイがどうして自分のキスをしたのか?もしかしたら寝惚けて誰かと間違えた?
 そもそも男が男にキスをすること自体、おかしい―――

『オレ……どこかおかしくなったのかな?リヴァイ部長のこと考えるだけで……熱くて、苦しくてたまらない。一体何なんだよ……』

 胸のドキドキが止まらない。壊れて破裂しそうな勢いでおかしくなってしまいそうだ。どうにも混乱してしまうエレンだったが、リヴァイにキスをされたことにだけは不思議と嫌悪感は欠片もなかった。寧ろその逆と言っていいくらいだ。

『リヴァイ部長のキスが気持ちよかったなんて……言えるわけないじゃないか……』



 チョコより甘いキスを、あなたに

 ここ最近は家に帰っても寝るだけの生活だったので、こんなことならきちんと部屋を掃除しておけばよかったなと思う。だがそんなこと気にする余裕はもはやない。玄関に入った途端、二人はスイッチが入ったように互いを貪り合った。

「はっ……あぁっ………」

 クチュクチュと混ざり合う唾液の音がやたらと響く。リヴァイはそのままエレンを押し倒し、ネクタイやシャツをあっという間に剥がしていった。 暖房を入れる余裕すら与えられず、曝け出されたエレンの肌にヒンヤリとした空気が触れた。

「ちょっ……ここ……玄関っ……」
「待てねぇ……」
「でもせめて……部屋で……」
「エレン、お前が俺を煽ったんだ。文句は言わせねぇぞ……」

 こんなに余裕のないリヴァイの表情を見るのは初めてで、驚きのあまり目を丸くする。ベルトが外され、ズボンの中へと忍び込こんできたリヴァイの手は、敏感に感じ始めていたエレンの雄を掌で大きく包み込んだ。

「あっ………やっ………」

 まるで待ち焦がれていたかのようにリヴァイに反応してしまう。一際大きく、熱く脈打つ昂ぶりからは透明の蜜が滴り落ちてくるのを感じ、恥ずかしさが余計に増していく。

「嫌……じゃねぇだろ?こんなに濡らして……」

 わざと自覚させるよう、手を上下に激しく動かすのに合わせて、蜜が絡んで余計に煽られてしまう。

「んんっ……はぁっ………!あつ……いっ………」

 ジュッ、ジュッと厭らしい水音。どんどん膨らむ昂ぶりを散々弄ばれ、高まる快感を許容しきれずエレンの頬には涙が一筋伝う。

「まだだ……エレン……」

 こんなもんじゃねぇだろ?と低く、甘ったるい声が降り落ちてくる。熱い吐息が耳に吹きかかり、たまらずブルリと震わした体の後ろにリヴァイの手が回された。

「やっ……」

 奥でずっとヒクヒクしていた蕾にリヴァイの指が遠慮なく突き刺さる。内壁がまるで悦んでいるかのように絡みつき、太い指を締め上げていった。

「狭いな……一人でしていなかったのか?」
「やぁっ……そ、んなこと……しな……」
「エレン、お前はあの女と寝たことがあるのか?」
「え……?」

 リヴァイが言っているあの女とはヒッチのことだろう。短い期間とはいえ付き合っていたこともあり、セックスをしたことがないわけではない。といっても、エレンは全然乗り気じゃなかったのに、今日のように強引に酒を飲まされ、酔った勢いでしてしまった一回限りだが。
それを正直に言っていいのかどうか、エレンは迷った。

「どうなんだ?エレン。」
「そ、それは……一応、付き合っていたことがあるので……もう昔のことですけど。」

 リヴァイに嘘は通じないような気がするので恐る恐る正直に答えると、聞こえるか聞こえないかくらいの声でリヴァイがぼやいた。

「気に入らねぇ……」
「え?……あっ……!」

 中にある指で内壁をグルリと回され、エレンはビクンと腰を跳ね上げながら背中を仰け反らした。奥へ向かってジワジワと進んでいくリヴァイの指に全神経が集中してしまう。気を逸らそうと天井や壁に視線を移そうとしたが、奥にある敏感な部分を強く擦られてしまい、エレンは大きく腰を跳ね上げた。

「エレンの好きなところを知っているのは俺だけだよな?」
「もぉっ……リヴァイ……さん、ダ…メ……」
「ダメなわけねぇだろ。こんなに俺の指を締めつけてるクセに……」
「あぁんっ……あぁっ……! ちが、う……そう、……じゃ……な、くてっ……!」

 リヴァイはもはやエレンが好きなところを知り尽くしている。何度も執拗に攻められる度、物足りないと欲求が沸き起こる。理性の欠片もほとんど無くしたエレンの手が自然とリヴァイの下半身へ伸びていった。固く、熱く、張り詰めたリヴァイの楔に触れるとトクンと脈打つのを感じた。

「エレン……?」
「欲しい……リヴァイさんの……オレの中に……」

 疼く体が止まらず、腰をユラユラと揺らしながら強請るエレン。これでは雌とまったく変わらない。リヴァイの顔が勝ち誇ったような笑顔へと変わる。

「欲しいか?俺のコレが……?」

 ここまでされて恥ずかしさも何も残ってなどいない。本能のままリヴァイを求める。エレンは涙ながらにコクコクと頷いた。

「ずっと我慢していたんです……でももう、無理……」
「エレン、お前が俺を求めるならいつでもやる……」

 剃り返ったリヴァイの昂ぶりの先端がトロトロに解された蕾の入口にキスをするように当ててくる。

「エレン―――」

 撫でるような声で呼ばれたかと思うと、息を整える間もなく一気に奥まで貫かれた。

「あっ……あぁぁぁ………!」

 貫かれた瞬間、甘い絶叫とともに絶頂を迎えたエレンから穿きだされた白い欲望。リヴァイの大きくうねるような律動に合わせ、エレンは何度も爆ぜた。

「おい……さっきからキツすぎだ、エレン……少しは手加減しろ……これだとまたすぐイッちまうだろうが。」
「そんなの……わからないからぁ……あぁっ……」

 もっと、もっと欲しいのだと。リヴァイを求めて激しく、大きく揺れるエレンの腰。離さないよう絡みつく内壁を激しく掻き回されると、淫らな水音とともに、結合部からはどちらのものかわからない甘くて熱い迸りが放たれる。

「すごい……リヴァイ、さん……きもち、イイ……イイよぉ……」
「俺もだエレン……お前の中はやっぱりやたまらねぇな……」

 快楽の波が押したり引いたりしてエレンを高みへと導く。リヴァイが角度を変えながら突くとまた新たな熱が弾けた。

「も……やっ……イキそ………」
「イキたかったらイッてもいいぞ。」

 汗ばんだエレンの額に優しく落とされるリヴァイの口づけ。エレンはフルフルと首を横に振った。

「リヴァイさんと……一緒……一緒にイキたいっ……」

 子どもが駄々をこねているようで情けないと思いつつもエレンはリヴァイの背中に腕を回した。

「この…馬鹿が……」

 毒づいた甘い囁きに鼓膜から電流が駆け抜けていく。リヴァイはふぅっと深い息を吐いてから、腰をぐるりと回しながらゆっくりと大きく動かし始める。エレンは離れないようリヴァイにしがみつき自らも腰を擦りつけた。
 さらに激しくなる水音とエレンの喘ぎ声がどんどん大きくなっていく。やがてエレンの目の前で光が弾け泡のようになって散ったかと思うと、エレンはもう何度目かの絶頂を迎えた。

「あっ、あぁぁぁぁ………!」
「くっ………」

 痙攣するように震える体の中で、一際大きくなったリヴァイの昂ぶりから熱い欲望が放出される。

「んっ……んんっ―――」

 脱力したリヴァイの体がエレンにのしかかってくると同時に、トロリとした淡い熱が下半身を満たしていくのをエレンはとても幸せに感じた。

「リヴァイ、さん……」

 エレンが名前を呼ぶと、リヴァイがはぁっと長い溜息をついた。

「くそっ……やっぱり物足りねぇ……」
「え?」
「お前が悪いんだからな、エレン。今夜は寝かせねぇからな……」

 声が、瞳が、リヴァイのすべてがエレンを捕らえて離さない。いまだセックスに慣れていないエレンの体を気遣っているのだろう。 自分しか見ることができないリヴァイの表情に、エレンは今日一番の笑みを浮かべた。

「オレも全然物足りないです……もっと、リヴァイさんをオレにください……」

 もっと欲しいと互い求め合い、引き寄せ合う唇。
 このまま夜が明けないで欲しいと願いながらエレンはリヴァイにその身を委ねた。
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