スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【最彼5新刊】秘密-ひみつ-

2016.9.25 最強彼氏5新刊
秘密-ひみつ-
A5/72P/700円/R18/表紙トムソン加工
HIMITU.jpg


表紙の鍵穴から覗く口絵イラストをすみこさんが描いています!
お話の元ネタもすみこさんからいただいたものです!ありがとうございます♪


【あらすじ】

 二人にとって忘れられない、禁断の夏が始まる―

 エレンは隣に引っ越してきた家の赤ん坊・リヴァイの手に触れたことで前世の記憶を取り戻す。
 前世で想いを告げることなく別れたエレン。現世ではリヴァイを守り、傍にいると心に決意する。
 それから12年の月日が流れ、大学一年生になったエレンは成長していくリヴァイに醜い欲望を抑えきれなくなる。このままではいけないと距離を置こうとしたエレンに対し、リヴァイはとんでもない行動をとる。
 年下リヴァイにエレンが翻弄されるお話。媚薬、玩具有の愛ある監禁本。最後はハッピーエンドです。

サンプルは飛び飛びになっています。


 プロローグ


 憧れがいつしか恋へと変わるのはよくあることだ。
 そして初恋は実らないともよく言われる。
 オレにとっての初恋は、年齢、性別、そして周囲の状況から言っても、相手に想いを届けることすらできない、とずっと思っていた。

  *       *       *

「エレン――後悔しているの?」

 夜――空に浮かぶ星々の海を、地面に大の字になり眺めていたエレンの視界にミカサが入りこんでくる。
 ここはウォール・マリアと壁外を結ぶ壁の上。反対側には巨人がいる未知の領域、もう反対側は荒れされた故郷の残骸――過去と未来、エレンはまさにこの境界線の上にいた。
夜より深い、漆黒の色をした髪を風に靡かせ、ミカサの瞳が心配そうに揺れている。瞼を二~三度瞬いた後、エレンは頭を掻きながら上半身を起こした。

「後悔することなんていっぱいありすぎて、お前が何のことを言っているのか、よくわからねぇよ。」

 たくさんありすぎた。母の死、リヴァイ班、ハンネス――自分の選択で多くの命を目の前で失ってきた。エレンのためにたくさんの命が儚く消えていった。
 エレンの力に希望を託して―――
 そろそろ日付の変わる時間なのだろう。さすがに風もだいぶ冷え込んできた。着慣れた兵団ジャケットだけではキツイものがある。だが、エレンが本当に寒いのは体ではなく寧ろ心なのかもしれない。

「エレン、とてもつらそうな顔をしている――リヴァイ兵長と別れたこと……」
「それ以上はやめてくれ、ミカサ――」

 肩をビクっと震わせミカサがすぐに口を噤む。怒気が混じったエレンの強い口調に、さすがのミカサも何も言えなくなってしまった。

「リヴァイ兵長にはリヴァイ兵長の信じる道がある。オレにはオレの進むべき道がある。巨人を駆逐する――目的は一緒だろ?」

 一度ほつれてしまった糸は二度と結ぶことはない。エレンはリヴァイの元を、調査兵団を離れることを決意した。

「オレと一緒にいると、多くの人間が死んでしまう。結局オレは人類の希望でもなんでもないんだよ。」

 エレンは立ち上がり、星空に向かって大きく背伸びをした。

「エレン、私はあなたの後をついていくだけ――」

 リヴァイはエレンとミカサが調査兵団を抜けることを見逃したのだろう。引き止めようともしなかった。悔しさと悲しさが入り混じり、エレンは唇を噛みしめた。
 いまさらながらに思い知らされる。
 自分は調査兵団の目的を果たすための貴重な戦力として、リヴァイに大事にされていたのだということを。
 垣間見えたリヴァイの優しさは、特別な感情から向けられたものではなかったのだろいうことを。

「オレはこれから壁の外に出る。もう後戻りできない。ついてきてから後悔しても知らないからな。」

 そうしてエレンはもう一度、壁の反対側、内地の方を振り返る。その瞳が大きく見開かれた。

「リヴァイ、兵長……」

 巨人化能力のせいか、エレンの視力は通常の人間よりはるかによく、何十キロ先にいる人間の姿も捕らえられるようになっていた。エレンの真正面、荒れ果てたウォール・マリアの街を挟んだ内地側の壁に佇む一つの影。
 じっと動かないその人影は、月あかりを背中に浴びて顔まではわからないが、リヴァイだとエレンは確信した。
 許可のないまま調査兵団を抜けるということは、脱走の罪で問われることになる。いまになってリヴァイはエレンを捕らえに来たのだろうか。
 しかし、リヴァイの影はじっとしたまま動きはしない。どういうつもりかは知らないが、このままエレンたちが壁外に出ても追いかけては来なさそうだ。

「エレン、どうしたの―――?」

 ミカサに声をかけられ、ハッと我に返る。

「いや……何でもない……行くぞ、ミカサ。」

 後ろ髪をひかれつつも背中を向けるエレン。リヴァイの視線を感じながら、壁を飛び降りた。

『さようなら、リヴァイ兵長――――』

 心で別れを告げ、エレンはその右手を食いちぎる。
 リヴァイ班を失ったとき、しばらくの間毎日のように彼らの墓へ赴き、謝罪し続けるエレンに、かけがえのない幼馴染がかけてくれた言葉を思い出す。

「エレン――人間ってね。輪廻転生といって死んでも魂は失われることはなくて、新しく生まれ変わることができるんだって。」

 そんなことできるはずもない、ただの夢物語だと馬鹿にしていたが、よくよく考えてみれば、金髪の髪をした利発そうな少年はエレンに対して一度も嘘をついてことはなかった。

「もし、生まれ変わることができたなら……あなたに好きだと言えるのだろうか―――リヴァイ兵長。」

 伝えることさえもできず、決して実りはしなかった恋――

 内から沸き起こる灼熱とともに、エレンはリヴァイへの想いをすべて溶かしていった。




* * *



1 巡るめく想い~再会~


「エレン、これから公園にサッカーしに行かない?」

 授業が終わり、帰り支度をしているエレンにアルミンが声をかける。

「ごめん、今日は母さんに早く帰ってくるように言われてるんだ。何でも、隣に引っ越してくる新しい人が挨拶に来るからって……」
「へぇ……お隣さんか。僕たちと同い年の子どもがいるといいねぇ。」
「あんまり期待できないけどな……じゃ悪い、オレ帰るから。」
「うん、また明日ね――!」

 まだ真新しいランドセルを背負い、エレンは駆け出す。

「こーらエレン、廊下は走っちゃダメよ!」
「ペトラ先生、さようなら―――!」

 担任のペトラに叱責されながらも笑顔で手を振るエレン。学校からは徒歩十分。近くには比較的大きな公園もあり、緑に囲まれた閑静な住宅地にあるエレンの家のすぐ右隣りはずっと空き家だった。

「あ……もう来ているんだ。」

 家の前には引っ越し業者のトラックが停まっていて、作業員が荷物を運びこんでいる。もともと手入れがされていたのか、空き家とは思えない綺麗さだったが、ここ数日、いろんな業者が出入りしていたのを見かけていた。さらに駐車スペースには、見たこともない豪華な車が停まっている。知識豊富なアルミンなら、すぐに車種がわかるのだろうが、エレンにはすごそうな車だというイメージだけで他はチンプンカンプンだった。

「ただいまー」

 玄関のドアを開けると、そこには見知らぬ女性物のほっそりとした靴があった。

「エレン、お帰りー。お隣さん来ているよ。」

 家の奥から母に呼ばれてそのままリビングへ向かう。ちょうど母・カルラと一緒に話していたらしい。白い肌に長い黒髪をした、綺麗な細身の女性がこちらを見てきた。

「こんにちはエレン君。」

 どこか儚げな笑みを浮かべ、挨拶をしてきた女性の腕には小さな赤子が抱かれている。エレンは女性より、なぜか赤子の方に釘づけになった。

「お隣にいらっしゃったクシェル・アッカーマンさんよ。」

 母が紹介している声を耳にしながらも、自然と足が吸い寄せられる。まるで、何かに呼ばれているかのように―――

「あら、エレン君。この子が気になるのかしら?」
「この子は―――?」
「私の息子、名前はリヴァイというの。生まれてまだ半年なのよ。」

――リヴァイ

 その名前を耳にした瞬間、ドクリと左の胸が大きく弾ける。次第に熱くなる体が小刻みに震え出す。一体何が起きたのかわからないエレンと赤子の視線がぶつかり合う。
 母親に似て、ダークグレーの色をした瞳は赤子とは思えない輝きを放っている。固まって動けないエレンに向かってリヴァイが小さな手を伸ばしてきた。
 
 触れろ――
 
 赤子から発せられているような言葉。エレンはこの声にどこか覚えがある。記憶?というより、魂が覚えている。そんな気がしてならなかった。
 エレンの指先にリヴァイの手が触れる。柔らかさと温かさと共に、エレンの脳内に突然膨大な情報量が映像となって流れこんできた。

「あっ…あぁぁっ……――――」

 壊される壁、そこから入ってくる見たこともない巨人が街を荒らし、逃げ惑う人々を次々と食い殺していく。
 巨人に食われる自分―――腹の中、体が溶かされていくのを感じながら、死の絶望より巨人への憎しみを叫ぶ自分。

 駆逐、してやる―――

「うっ……あぁぁ……」
「エレン、どうしたんだい!しっかりおし!エレン!」

 血相を変えたカルラが錯乱するエレンに駆け寄る。エレンは顔を青ざめさせながら頭を抱え、額には冷や汗も浮かんでいた。

『そうだ……オレは……人ではなかった……』

 変化する体――人類の希望、そして――


――おい、ガキ共……これはどういった状況だ?
――こいつは俺が預かる
――お前の好きな方を選べ
――エレン


「リヴァイ……兵長……?」
「どうしたんだい、エレン……大丈夫かい?」

 明らかに様子のおかしいエレンの肩をカルラが揺らしながら名前を呼び続ける。巨人に食われたはずの母がいま目の前にいる。そうだ、なぜいままで忘れていたのだろうか。
 幼馴染のアルミン、そして担任のペトラ――ここでない世界で、エレンと関わりのあった人物ばかりだ。まだ七歳だというのに、いまよりもっと大きくなった自分の姿――
 知識もないのに、直感が教えてくれる。これは前世の記憶なのだと。だがどうやらそれを取り戻したのは自分だけのようだ。

「大丈夫だよ、母さん―――ごめん、何でもないんだ。」

 エレンはもう一度、リヴァイの顔をまじまじと見る。生まれたばかりの赤子でとても当時とは似つかないが、紛れもなくエレンが恋い焦がれたリヴァイそのものだ。
 憧れ、密かに恋をし、そして、別れを告げた――前世のエレンにとってかけがえのない人物。その生まれ変わりがいま目の前にいる。

「エレン君……?」

 クシェルも心配そうな顔をしてエレンを気づかう。何か言いたげにしているリヴァイの手を、今度は離さないと強く握る。キュっと握り返してくる小さな指。自然と涙がエレンの頬を伝った。

「大丈夫?やっぱりどこか痛いんじゃ……?」
「ううん、違うよクシェルおばさん……違うんだ……」

 エレンは涙を拭いながらほほ笑む。

「会えてうれしいんだよ……」

 そのとき、赤子の顔もやわらかな笑みを浮かべたように見えた。


 クシェルたちが帰った後、エレンは自室へ行き、宿題をするフリをして机に向かう。真っ白なノートに思い出したことを書き出してみた。

 ウォール・マリア
 巨人

 人を食う巨人――母のカルラはそういった映画やドラマはなるべくエレンの目に触れないように気づかっていたようだが、リアルで思い出すと吐き気を覚える。
 母のカルラを始め、多くの仲間が巨人に殺された――それに比べればいまの世界はなんと平和なことだろう。明日には死ぬかもしれないという恐怖に駆られることなく、毎日を過ごすことができる。
 あのとき、あれだけ願った幸せを生まれ変わったことによって手に入れることができた。普通であれば、前世の記憶など思い出さないはずなのに――

 調査兵団
 リヴァイ兵長

 ノートを走らせる鉛筆の動きが止まる。エレンはある違和感に気づいた。

「あれ……オレ……こんなに字、書けるのか……」

 エレンは今年で七歳。小学校に上がったばかり。これから習うはずの字をスラスラと書いている。まだ頭の中が混乱して、整理しきれていないというのもあるが、言えることはいまのエレンはついさっきの自分より知識や教養が身についている、ということだ。
 これもさっき流れこんできた、前世の記憶のせいなのか?

「どうして、オレだけ……急に記憶を取り戻したんだろう?」

 右手をジッと見つめる。不思議と赤子のリヴァイが触れた温もりがまだ残っているような気がした。

「やっぱり……リヴァイ兵長、なんだよな……」

 リヴァイの最後の姿を見たのは、エレンが調査兵団を抜け出し、壁外に出るとき。リヴァイはその後もエレンたちを追いかけてくることはなかった。
 壁外に出たエレンはこの世界の真理に辿りついたものの、結局念願だった海を見ることも、リヴァイと再会することもなく、自分の役目を終え若くしてその生涯を閉じた。
 思えば翻弄され続けた人生だったといえる。大切な者は奪われ、望みもしない力を手に入れ、好きになった人に想いを告げることもないまま別れた。

「たとえリヴァイ兵長に想いを告げたとしても――恋人になることなんてできなかっただろうしな……」

 エレンは肩で大きな溜息をつく。

「オレはあのとき……リヴァイ兵長に何を求めていたんだろう。」

 人を好きになることで、人としての感情を抱き続けることで、自分が巨人ではなく人間なのだという意識を繋ぎ止めておきたかったのかもしれない。
 この再会は何を意味するのか――
 なぜエレンだけ前世の記憶を取り戻したのだろうか――
 謎は深まるばかり。アルミンやペトラ、カルラたち、前世のときにもいた人間が記憶を取り戻していない以上、混乱させるわけにはいかない。

「リヴァイ兵長は……記憶を持っているのだろうか。」

 生まれたばかりの幼い赤子で喋れないのだから聞くことさえままならない。それでも、隣に引っ越してきたのは偶然ではないはずだ。

「今度はオレが……リヴァイ兵長を守る番だ。」

 前世では結局守られるばかりだった。巨人化したアニに攫われたときも、アニとの闘いで暴走したときも、ケニーたち中央憲兵に捕まったときも――エレンはいつもリヴァイに助けられた。
 いまの現世で守る、というのも構えすぎなのかもしれない。それでも、傍にいることができるのなら、もしリヴァイが前世の記憶を持っているのだとしたら――エレンには聞きたいことと、伝えたいことがあった。
 胸の宿る熱は――前世のものと何ら変わりない

「オレは……またあなたに恋をするのだろうか―――」



「エレン、もう帰るの?」

 授業が終わってすぐ、ランドセルを背負い、教室を出ていこうとするエレンをアルミンが慌てて引き止めた。

「そうだけど?」
「エレン、最近何かあった?」

 アルミンとは母親同士の仲が良く、物心ついたときからよく一緒に遊んでいた。少し気弱な割には、頑固に譲らないところもあって、同い年の連中と対立することもしばしばある。喧嘩になって、二人で傷だらけになるのはしょっちゅうだ。

「別に……何もないけど?」

 はぐらかすような返事をしたものの、アルミンは納得がいかない表情で首を傾げた。

「放課後のサッカー全然来なくなっちゃったじゃない。エレンがいないとジャンたちのチームになかなか勝てないんだよ。」

 ジャンとは小学校に上がる前から、エレンとは何かと意見が対立する。周囲からは犬猿の仲とよく言われていた。エレンは特にジャンを意識しているつもりはないのだが、向こうはエレンのことがどうも気に入らないらしい。何かにつけて因縁をつけてくるのだ。

「悪い、いま隣の家の子どもの面倒を任されているんだ。」
「へぇ……子どもの面倒?エレンがねぇ……」

 普段、カルラから課せられる家の手伝いもサボろうとしてよく怒られているエレンの行動からして、アルミンには到底信じられないのだろう。

「じゃぁな。サッカーがんばれよ!」

 それ以上詳細を聞かれても困るので、エレンはアルミンの肩をポンっと叩き、逃げ去るように教室を出ていく。途中、廊下で他のメンバーと待っていたジャンが、エレンの姿を見てチッと舌打ちをした。

「何だ何だぁ?もうお帰りかぁ?さては俺に勝てないもんだから逃げるってわけかよ!」

 廊下の端から端まで聞こえるような大声で言われ、そのまま素通りできるほど、エレンはまだ大人にはなりきれていなかった。ピタリと足を止め、ゆっくりと振り向く。

「十勝十敗一引き分けだろ?オレがお前に劣っているとは思えないけど?」
「フン!でもお前は俺様に勝てないと悟ったから、最近は逃げるように帰っているんだろうが!」

 ジャンの周囲の人間はまたいつ、取っ組み合いの喧嘩が始まるのかとハラハラしている。追いかけてきたアルミンもエレンの背後で、不安げに見守っていた。

「あのな……オレは能天気なお前ほど暇じゃねぇんだよ。」
「随分と言ってくれるじゃねぇか、エレン。毎日毎日そんなに早く帰らないといけない理由なんかあるのかよ。だったらその理由とやらを言ってみろよ!」

 前世と変わらないやりとりをするということは、エレンとジャンは本当に犬猿の仲なのだろう。エレンは長い溜息をついた。

「プライベートだ。」
「プ……べ……?何だ、そりゃ。」

 ジャンが目を白黒させながらどもる。小学校一年生には難しい単語だったらしい。気をつけてはいるが、年相応に振る舞わなくてはいけないというのも至難の業だ。
 ただでさえ、頻繁にやっていたおねしょをしなくなったことで、カルラに驚かれているくらいなのだ。

「そんな言葉さえわからない奴と付き合っていられるほど、暇じゃないってことだ、じゃぁな!」

 まったく、無駄な時間を過ごしてしまった。
 いつもより多少速足でエレンは慣れた道のりを駆け抜けていく。

「ただいまー!」

 家に辿りつくと、そのまま二階に上がりランドセルを机の上に置いてからまた、一階へとトンボ帰りをする。誰もいないリビング、テーブルの上には、エレンのために用意されたおやつが置いてあった。
 母のカルラは週三日程度、近所のカフェに働きに行っているので、夕方遅くにならないと帰ってこない。いままではカルラが帰ってくる時間まで、アルミンたちと外で過ごしていたが、最近はエレンが帰ってくるようになったのでおやつを用意してくれるようになったのだ。

「やった、今日は母さん手作りのマドレーヌだ!」

 こういったところは自分もまだ子どもだなと安堵する。冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出し、グラスに注げば準備万端。マドレーヌを頬張る。体はまだ子どもなのだからどんどん食べて早く成長しなければならない。

「美味しい……」

 小さい頃から慣れ親しんだその味に、自然と笑顔が零れてしまう。以前、近所で喧嘩をして、顔や体を擦り傷だらけにして帰ってきたエレンをカルラは叱ることなくケガの治療をすると、おやつのマドレーヌを出してくれた。結婚する前はパティシエを目指していただけあってカルラが作る菓子はどれも美味しいが、特にマドレーヌは優しい味がしてエレンは大好きなのだ、
 二つあったマドレーヌを一個だけ食べて、もう一個をラップで包む。そしてエレンは隣の家に行った。

「あら、エレン君。いらっしゃい。」
「こんにちは、クシェルおばさん。」
「ちょうどいま、昼寝から起きたところなのよ。」

 この頃の赤子はほとんど眠っていることが多い。平日、エレンは学校が終わった後、夕方に遊びに行くのだが、リヴァイはちょうど昼寝から醒めているのだ。まるで、エレンが来るのを待っているかのようだと思ってしまうのは気のせいだろうか?

「はーい!」

 エレンは元気に挨拶し、二階へと上がる。リヴァイの部屋は向かいにあるエレンの部屋とは隣同士、ベランダから互いの部屋が見える位置にあった。
 エレンの家とリヴァイの家の間には、エレンの庭にある木があってそれをうまく伝えば行き来できるような距離だ。前世のエレンやリヴァイであれば容易いだろう。

「こんにちは、リヴァイ兵長――」

 クシェルも誰もいないところで、エレンはリヴァイに対しそっとその呼び方をする。
 ベビーベッドの上で、天井から釣らされたおもちゃの鳥たちがクルクル回るのを追っていたリヴァイの小さな目がエレンの方を見る。だんだんと綻ぶ口元、伸びてきた手をエレンは包み込んだ。

「いつも本当にありがとうね、エレン君。」

 ジュースを持ってきたクシェルがニッコリとほほ笑む。前世のときには、リヴァイの母親のことを詳しく知る機会はなかった。リヴァイが調査兵団に入る前は、地下街で有名なゴロツキだったというだけでそれ以上のことは聞くことさえできなかった。
 リヴァイに似ているが、強さの中にどこか儚げな美しさを持っている人だなというのが、エレンのクシェルに対する第一印象だった。

「私が病気がちであまり外に出かけられないから、友だちを作る機会もなくて……エレン君がいて本当に助かっているのよ。リヴァイもエレン君のこと好きみたいだし。」
「え……」

 ドキっと胸が高鳴ってしまう。一方でリヴァイが無邪気な笑顔をエレンに振りまいてきた。

「さぁリヴァイ、エレン君にいっぱい遊んでもらいましょうね。」

 カルラに抱かれ、ベッドから出たリヴァイはすぐにハイハイしながらエレンの元にやってくる。触れる手はやはり赤子なのか、体温は高めだ。

「もうすぐ言葉も話し始めるといいんだけど……」
「赤ちゃんていつ頃から話し出すの?」
「そうね……十二月二十五日が誕生日で一歳になるから、もうすぐだと思うんだけどね……」

 やはり誕生日も前世のままだ。自然と笑みが零れていく。

「へぇ……リヴァイってクリスマスが誕生日なんだ。」

 前世のときには誕生日に何かを祝うことなどできなかった。エレンがリヴァイと一緒にいたのはわずか半年にも満たない。そういえば、エレンがリヴァイと別れたあの日は、冬の冷え込みが厳しい時期だったのを思い出す。

「アァ……ウーー」

 リヴァイが何か言いたげに、エレンの腕を掴みながら立ち上がろうとしてくる。出会ったばかりの頃はハイハイするのもやっとだったというのに、いまでは捕まり立ちなら何とかできるようになっていた。カルラやクシェル曰く、リヴァイは通常の赤ん坊より成長が早いらしい。

「どうした?リヴァイ?」

 全体重をかけるため、エレンの腕を掴む力が強まる。ゆっくりと、時間をかけてようやく立ち上がったリヴァイは、エレンの頬を触ろうとしてきた。

「ウゥーー、ウ―」
「うふふ、リヴァイったらやっぱりエレン君の前になると元気になるのね。」

 もうすぐ一歳になろうとする赤子と、七歳の子ども。リヴァイの成長を見守れることは何とも得した気分ともいえる。

「……エ……」
「え………?」

 エレンは一瞬、耳を疑う。

「エ……ェン……!エェン!」

――エレン

 確かに今、名前で呼ばれた。頭の整理がつかないエレンは瞼をパチパチとさせた。

「あらこの子……もしかして……」

 クシェルもさすがに信じられないという顔をしている。リヴァイはまだ十か月すぎ。しかも初めて発した言葉が、まさかエレンの名前とは……その場にいた二人は呆気に取られてしまった。

「ご、ごめんなさい。クシェルおばさん。」

 あまりに申し訳なくて。思わず謝るエレン。しかし、カルラはフフフと笑い出した。

「なぜ謝るの?わが子が初めて言葉を発したのは、うれしいことでしょう?」
「で、でも……赤ちゃんて普通は【パパ】とか【ママ】とか呼ぶはずだって、母さんから聞いていたから……」
「それだけ、リヴァイがエレン君のこと好きって証拠でしょ?」

 またしても胸がドキっと高鳴る。今日だけで驚くことがいっぱいで心臓が破裂してしまいそうだ。そんなエレンの思いなど知る由もなく、リヴァイは覚えたばかりの言葉を、うれしげに繰り返す。

「エェン!……エェン!」

 せっかく名前を呼んでいるというのに、無反応なのがおもしろくないのか、エレンの髪や服を引っ張り暴れ出すリヴァイ。赤ん坊にしては強い力に、すっかり腑抜けになったエレンはいとも簡単に背中から倒れてしまった。

「リ……リヴァイ……」
「エェン!」

 エレンの上に乗っかり、頬をピタピタと叩くリヴァイ。クシェルの言うとおり、自分は少なくとも好かれてはいるようで、エレンはほっと安堵する。

「これからもリヴァイと仲良くしてやってね、エレン君。」
「クシェルおばさん……」

 エレンはリヴァイの小さな頭をそっと撫でる。柔らかな体、まだ傷もついていない小さな手――もう、二度と傷つけさせたくない。このときからエレンはリヴァイに対する独占欲が生まれるのを感じ始めていたが、胸の奥にそっとしまうことにした


* * *



※サンプル飛びます

リヴァイ12歳、エレン19歳


2 ほつれた糸は結べない


「エレン、おい……起きろ。」

 肩を揺さぶられ、強引に眠りから起こされる。重たい瞼を開くと、子どもながらに端正な顔が飛び込んできた。

「う、うわぁぁぁぁぁっ―――」

 驚いたエレンは反射的に飛び起きる。相対してリヴァイは呆れ顔でエレンの様子を窺っていた。

「朝っぱらからギャーギャーうるせぇな。」
「お、お前また勝手に部屋に入ってきて!」

 見ると、ベランダの窓が全開になっている。リヴァイが玄関からではなく、自宅からベランダを飛び越え、向かいにあるエレンの部屋にやってくるのはもはや常習になっていた。

「こっちの方が短距離だろうが。それにお前、目覚まし止めちまってまた寝ちまうだろ?今日の講義は朝一じゃなかったのかよ。」
「あっ――――!」

 枕元にあった時計は朝の八時になろうとしている。リヴァイの言うとおり、エレンは寝起きが悪く、せっかくセットした目覚ましも覚醒する前に無意識に止めてしまうのだった。

「やべぇ、遅刻―――!」

 パジャマ替わりのTシャツとスエットの短パンを脱ぎ去り、クローゼットを開けて手にとった服に適当に着替える。

「ったく、本当に世話が焼けるな……てめぇは……」
「リヴァイこそ悠長なこと言っている余裕ないだろ?早く行かないとお前まで遅刻するぞ。」
「そうだな、俺が遅刻したらエレンのせいだな。」
「ちょっと!何でそうなるんだよ……!」

 こんなことなら、昨晩のうちに準備しておくんだったと後悔する。愛用の肩掛けバッグにテキストやらノートやら筆記用具を詰め込み、寝グセも直す余裕もなく部屋を飛び出す。リヴァイは澄ました顔でエレンのすぐ後ろをついてきた。

「いまはお前が俺の保護者みたいなもんだろうが。俺はまだ小学校六年生だ。行き帰りに一人は不安もある。」
「―――こういときばっかり保護者呼ばわりしやがって。」

 普段はまるで立場が逆転していると言っても過言ではない。

「あら、エレンやっと起きたの?」
「母さん……起こしてくれてもいいのに―――」

 エレンはテーブルに用意されていた食パンを牛乳と合わせて飲み込む。リヴァイはとうに来て朝食を済ませていたようだった。

「まったく――リヴァイ君は一度も寝坊したことがないっていうのに、これじゃどっちが年上なんだか……」

 わが子ながら情けないと呆れ混じりの溜息をつくカルラは、リヴァイのことも自分の子どものように可愛がっている。
 二年前に母・クシェルが亡くなって以降、隣の家で一人ぼっちなってしまったリヴァイの面倒を自分で見ると、ケニーの前で啖呵を切ったエレンだったが、所詮はまだ高校生、できることは限られてしまう。
 しかしそこはもともとクシェルとの親交が深かった、エレンの両親が全面的にバッグアップしてくれた。

「ったくもう……母さん、リヴァイの肩ばっかりもって……」
「当たり前でしょ?リヴァイ君は素直だし、礼儀正しいし、優秀だし。掃除だって私がしないまでもこの歳で完璧にできるのよ。リヴァイ君の爪の垢を煎じてあんたに飲ませてやりたいわ。」

 どうもこれ以上は不利というものだ。エレンは聞こえないフリをして、グラスに残っていた牛乳を飲み干した。

「行ってきます!行くぞ、リヴァイ……」

 エレンはリヴァイの手を引っ張る。他人より低めのリヴァイの温もりは前世と変わらない。触れる度に胸が苦しくなるのを感じる。特に最近、日に日にリヴァイが成長していく姿を見る度、強くなっていくのだがわざと気づかないフリをしていた。
 時計をチラリと見る。リヴァイの学校の始業時間までちょうど三十分。駆け足で行けば間に合わないことはない。エレンは通勤ラッシュの中をうまくすり抜けながら、ちょうどやってきた電車にようやく乗り込んだ。
 もうすぐ梅雨明けということもあり、暑さとジメジメした湿気が入り混じって電車の車内は不快感が募る。しかも、今日は運悪く遅延していて、普段なら比較的空いているはずの車内がギュウギュウに混んでいた。こうなると、たかが三駅でも成長期途中のリヴァイにはつらいものがあった。

「やられたな……大丈夫か?リヴァイ。つらくなったら言えよ?」

 エレンはまだ自分の胸くらいまでしか背がないリヴァイを周囲から守るようにして反対側のドアへと詰めていった。リヴァイはドアを背にして立たせ、両端に手をつき他の者が触れられないようにした。

「過保護だな。お前は―――」
「何だよその言い方……嫌だっていうのかよ?」
「いや……悪くない。」

 キキキーーーっ!つんざくような音が耳に響くと、突然の重力がかかり体が傾く。しかも、将棋倒しのように人が傾きのしかかってきてさすがのエレンでも庇いきることができなかった。

「うっ――――ご、ごめん。リヴァイ、大丈夫か?」

 リヴァイの体に否応なく触れてしまう。ギュっと目を瞑っていたリヴァイの顔がすぐ間近に迫る。無意識にドクンと胸が大きく跳ね上がった。

「お前が謝ることねぇよ、エレン……にしても、どうしたんだ?」

 まだ次の駅に辿りついてないのに、完全に電車は止まってしまった。何が起きたのかとエレンたちだけでなく、中にいた全員のどよめきが車内に響き渡った。

『お客様にご案内いたします。ただいま、前を走る電車で緊急停止ボタンが押されたため、現在確認を行っております。情報が入ってくるまでいましばらくお待ちください。』

 ガヤガヤと車内がどよめく。皆が一斉に会社や学校に連絡を入れ始めた。やられた―――エレンは頭を抱えてしまう。スムーズに行ってギリギリセーフだったのに、これでは完全にリヴァイも自分も遅刻確定だ。

「これじゃ……完全に遅刻だな。ごめん、リヴァイ……」
「不可抗力だ、仕方ねぇだろ……それに一時間目は気に入らない奴の授業だからな、出られなくてせいせいする。」
「お前、また……」

 エレンが注意しようとするが、リヴァイは聞く耳を持たずフンと鼻で笑う。リヴァイの学校で年配の算数の教師は頭が固くて嫌いだと、いつも愚痴をこぼしていたから、今日の一限目は算数なのだということは、口にせずとも容易に想像がついた。

「それにしても……暑いな……」

 ただでされ不快感この上なかったというのに、冷房があまりよく効いてきてはいないようだ。リヴァイは首元を手で仰いだ。
 有名私立小学校に通うリヴァイは指定の制服を着ている。 冬は濃いグレーのブレザーと膝丈までのズボン、ネクタイの色は高学年と低学年で違う。ランドセルはもとより帽子やシャツに靴、靴下に至るまですべて指定されているというのだから驚きだ。
 しかしいまは夏服ということもあって、上は半袖のシャツだけを着ている。蒸し暑くなってきたこともあり、内から滲む汗が、ピッタリと肌にくっついていた。
 ドクンと胸がいつもより高く、そして速く刻まれていく。気分が妙に昂っていくのをエレンは必死に隠そうと、なるべくリヴァイのことを見ないように、視線をさまよわせていた。

「――エレン、お前は大丈夫なのか?」
「あ、あぁ……うん、オレは全然平気だから気にしないで……」
「さっきからやたらと顔が熱そうに見えるが?具合でも悪いんだったら早く言えよ?」

 七つも年下にこうも気を使われてしまうとは情けないものだが、リヴァイに頭が上がらないのは前世の記憶を引き継いでいるからなのだと、エレンは最近やっと諦めがつくようになっていた。

「……いいから、オレのことは放っておいて大丈夫だから。」

 これ以上、リヴァイに深く追及されたくはない。やんわりと拒絶したつもりだったが、リヴァイの顔がだんだんと不機嫌そうに変わっていくのがわかった。

「それより、リヴァイの方こそ大丈夫か――暑くないのか?」

 時間がなかったからというのもあるが、エレンも今日は薄手のシャツ一枚。どこをどう足掻こうと、リヴァイの肌とピッタリくっついてしまう。やはりまだ子ども、肌がスベスベしているなと余計なことを考えてしまうのも仕方のないことだ。

「お前――何かどんどん熱くなっている気がするぞ?熱でも上がってるんじゃねぇか?」
「ち、ちがうってさっきから言ってるだろ?」
「何だよ、心配してやってるんだろうが――」

 体勢上やむを得ず身を屈ませたエレンの額に、リヴァイの額がピタリとあたる。人形のように整ったリヴァイの顔が目の前に迫る。吐息がちょうど鼻のあたりにまともにかかって、媚薬のような甘さに酔わされ、ますますエレンの胸の鼓動が速くなる。寝坊したにしては、あまりに過激な拷問といってもいい。

「わかったから!心配しなくても大丈夫だから……!ちょっと寝不足なだけだ。」

 適当な理由をつけ、リヴァイを拒絶するエレン。しかし、当の本人はどうも納得がいっていないようだ。

『お客様にご案内いたします。ただいま……』

 車掌はさっきから機械的に同じアナウンスを繰り返しているだけで、一向に復旧の目途を知らせてはくれない。ますます車内の温度が上昇しているのか、リヴァイの首筋に玉のような汗が滑り落ちていくのが見える。エレンの理性を試してでもいるのだろうか。
 あぁ、もう何とかしてくれー―エレン天を仰ぐ。これでは蛇の生殺しもいいところ。夏、ただでさえ薄くなる衣服、狭い空間で密着した状態――伝わる熱、触れ合う肌……これで意識するなと言う方が酷というものだ。
 普段のリヴァイは飛び抜けた知能の高さもあってか、エレンと同年齢か、下手したら年上に見えてしまうときもあってとても小学校六年生とは思えない。そのせいか――男の色気というものを感じるようになっていたのだ。

「エレン、お前―――最近、何か俺に隠しごとしてねぇか?」

 いきなりド直球な質問をぶつけてくる。こういうときだけ子どもらしいといえば、子どもらしいのだが。

「な、何だよ……いきなり!」
「お前の俺に対する態度が不審すぎる――自覚ねぇのか?」

 自分はそんなに態度に出やすいタイプだっただろうか?何もかも見透かそうとするリヴァイの目がエレンを睨むように見つめてきた。

「そ、そりゃ……昔みたいに何でもかんでも口にするってわけにはいかないこともあるし……オレにもまだよくわからねぇんだよ。」

 本当は知っている。さっきから止まることのないこの動揺は、前世でエレンがリヴァイに恋をしていたからだと。転生しても、いまだ淡い恋心は色褪せていなかったのだと。
 リヴァイがだんだん成長するにつれ、前世で知っている姿に近づいていくのが目に見えてわかる。そして転生したいまだからこそ、当時抱き、焦がした気持ちは嘘偽りではないのだと自覚させられてしまう。
 しかし、前世の記憶のないリヴァイにそれを話したところで頭のおかしい、イカれた奴だと一蹴されるに決まっている。
 前世の辛い記憶など、思い出さない方がいいのだ。リヴァイはそれほどまでにいろんなものを背負いこんでいた。
 いまリヴァイとエレンがいる世界には、人を食う巨人は存在しない。ある程度の秩序も確立されている。リヴァイがこの世界で幸せな人生を送ってくれれば――エレンはそれ以上、望んではいけないのかもしれない。

――だがそれで、お前は本当に幸せなのか?

 誰かがエレンの耳元で囁く。自分のとっての幸せは一体何なのだろう?エレンは思い悩み始めていた。
 このことは決してリヴァイに告げてはならない。苦悶を浮かべるエレンのことが気に入らないのか、リヴァイは口をへの字に曲げ、あからさまに不満を顔に表した。

「まぁ……いい……それより、お前――気づいているのか?」
「えっ―――」

 グイっと頭を引き寄せられる。リヴァイの柔らかな吐息が耳元にかかった。

「勃ってるぞ。」

 えっという言葉さえ呑み込まれた。リヴァイは人目から死角になっているのをいいことに、エレンの下半身の中央をジーパン越しに小さな手でギュっと掴んできたのだ。

「っ――――――――!」

 声にならない声があがる。全身の血液が一気に沸点まで上昇したような感覚に襲われ、エレンはわずかに体をくねらせた。

「お……まえ、……何やってんだ……リ、ヴァイ……」
「自分でも気づいてなかったのか?さっきからここが元気になっていたぞ?」

 何度も確かめるように、ギュっ、ギュっと強弱をつけてくる。それが悪い意味でエレンを刺激していた。

「ば……か、……こんなところで……や、めろ………」

 ここが車内の端っこで助かった。背中から人の強い圧力がかかっているため、エレンの両腕はリヴァイの小さな体を守るのが手一杯でその悪戯な手を跳ね除けることすらできない。
 それをわかっていながら、止めようとしないリヴァイの手がさらに先へ進もうと、ファスナーを下そうとした。

「いい加減にしないと……さすがのオレも怒るぞ、……リヴァイ。」

 これが最後の警告だ。エレンは潤みかけた瞳をリヴァイに向ける。しかし、エレンがこれまでリヴァイのことを怒ったことなどただの一度もない。と、いうよりリヴァイが優秀すぎてエレンを怒らせるようなことをしたことがないというのが正しい言い方ではあるのだが。
 リヴァイはエレンに目を合わせようとせず、下半身の方を観察するように視線を釘づけにしていた。ジジジという音を立て、ファスナーが最後まで行きつくその瞬間、ガタンと音を立て電車が動き出す。突然のことだったので、さらに体が押されてしまい二人は体を斜めにさせながら耐えた。

『お客様にご案内いたします。安全の確認がとれましたので、運転を再開いたします―――』

 ノロノロとしながらも動き出す電車。リヴァイの手は何事もなかったかのようにエレンの下半身から離れている。エレンはほぉっと深い息を吐いたが、リヴァイに対する怒りは収まらなかった。

「今日はここまでにしておく。ちゃんと遅延証明もらってから行くんだぞ。」

 リヴァイの学校の最寄り駅の改札口。先に改札を通ったリヴァイにエレンは告げた。

「学校まで送ってくれないのか?」
「リヴァイ、来年はお前も中学生だろ?オレも大学が遠くなってお前の送り迎えが厳しくなってきた。バイトも始めたいしな……」
「バイト……だと?」

 うっかり口を滑らせてしまい、リヴァイの顔つきが変わる。そう、エレンはリヴァイには内緒で密かにバイトを探していたのだ。
 実は高校生の頃、エレンは一度バイトを始めようとしたことがある。ちょうどこの駅のすぐ近くにある。大手ファーストフード店だった。そのことを話すと、リヴァイは「お前には接客が無理だ」「向いてない」と散々コキ下されて断固反対されたのだ。
 母・カルラからも、リヴァイがもう少し成長するまでは様子を見てやれと言われ、当時は泣く泣く諦めたのだった。

「俺は聞いてないぞ、そんな話。」

 一度通った改札を戻らんとする勢いのリヴァイ。エレンは慌てて大声を出して遮った。

「もういいから、早く学校に行けよリヴァイ!気をつけてな!」

 エレンはクルリと背中を向け、ホームへと駆け出す。電車がついたばかりのところ、ギリギリのところで乗り込む。プシューっと音を立ててドアが閉まった。
 動き出す電車。息を切らしながらエレンは振り返ってみたがリヴァイの姿がホームに現れることはなかった。
 ちょうどいい機会だったのかもしれない。リヴァイもエレンもお互いに依存しているところがあった。少なくとも学校の行き帰りを一緒のするのは止めてみたい――エレンは密かに画策していたのだ。
 リヴァイの学校の最寄り駅よりさらに五つ先、都心より正反対の緑豊かな郊外の街にエレンが通っている大学がある。ホームに着いた電車を飛び降り、エレンは駅の男子トイレ、しかも個室に入っていった。

「くそ……リヴァイの奴………」

 ジーパンを太腿のあたりまで下す。中からギュウギュウにはちきれんばかりの若々しい性器が濃いめのグレーをした下着から完全に頭を覗かせている。中途半端になってしまった下着も下すと、ようやく狭い空間から解放された。

「うっ――――」

 声を押し殺し、エレンは性器を手で包み込む。先端からトクトクと零れていた蜜がエレンの指と指の間を侵食していった。
 早く、早く抑えなければ―――リヴァイには決して見せてはいけないこの浅ましい欲望を。半ば強引に扱き始めた。

「ふぅっ……うぅぅ」

 さっきの車内でのリヴァイの艶めかしい顔が脳裏を横切り、ビリビリとした電流がエレンの背筋を下から上へと駆け抜けていく。声が外に漏れないよう、エレンは持っていたハンカチを口に咥えるがどうもそれでは足りないようだ。
 グチュ、グチュっと蜜が溢れ、指の滑りがさらに増していく。ドクドクと内からの脈動がさらに膨張させ、下半身だけでなく全身まで回った熱で蕩けそうになる。
 汗なのか、それとも別のものなのか、エレンが着ていたTシャツに染み渡る。まどろっこしい感覚が波のように押しては、ぎりぎりのところで引いていった。

「電車遅れてラッキーだったな、ジャン!これで堂々と一限目遅刻できるぞ!」
「うっせぇぞ、コニー。そんなことはわざわざ口にするもんじゃねぇんだよ!」

 ドアを隔てたすぐ反対側で、聞きなれた声と名前が耳に入ってきて心臓が飛び出そうになる。昔からの付き合いである、コニーとジャンだが、幸い個室の利用ではないようだった。
 このまま長居しているわけにはいかない。上下を扱く手の動きを加速させる。ハンカチの合間から洩れる息が熱く、また内側に籠って溶かされてしまいそうだ。

『リヴァイ……リヴァイ、………』

 まだ子どもだというのに、身長の割には比較的大きな手、そして形の整った唇。どんな獲物も狩るような、鋭い眼差し――服の上越しからでも触れられたことに、抑え込んでいた歓喜が溢れ出して止まらなくなる。

『リヴァイ……兵長っ―――――』

 駆け上がる絶頂が弾ける瞬間。リヴァイの顔と前世のリヴァイの顔が重なり、完全に一致した。解放され、穿き出される白い欲望が飛び散り、トイレの床にポタポタと零れる。エレンは膝からガックリと崩れ落ちた。

「なぁ……そういえば、海行く日程早く決めねぇとな!講義終わった後、エレンたちと相談しようぜ。」
「人数も早く確定させないといけないのに、ライナーの奴がクリスタになかなか声かけねぇんだ。図体でかい割に奥手だっていうんだから、イライラする……」
「それ、言ったらお前だってそうだろ、ジャン!ミカサが今回行くって言ってるのはあれ絶対エレン目当てだぜ?」
「なななななな何を言ってるんだよコニー!ミカサが誰目当てだろうが、俺には関係ねぇよ!」

 馬鹿な二人の会話がようやく聞こえなくなる。トイレットペーパーで汚れた体と床を綺麗にし、何ごともなかったかのようにすべてトイレに洗い流す。いま自分が抱えている葛藤や悩みも洗い流すことができたら、とエレンは溜息をついた。

「オレ……やっぱりリヴァイじゃないとイケない……」



上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。