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【C90・女装花魁パロ】艶華恋歌サンプル

8/12 COMICMARKET90 東4ホールヤ-43b
8/21 SUPERCOMICCITY関西22 スペース未定

Mikeneco Cafe
夏コミ新刊は女装花魁パロ本です。

リヴァイ×エレン小説
女装花魁パロ R18
艶華恋歌
A5/116P/1,000円
表1-400



【あらすじ】
政府公認の遊郭・マリア。
そこで一番と言われている双翼楼の花魁・カルラの息子であるエレンは、病気になった母の薬を取りに行った帰り道、暴漢に襲われそうになったところをある軍人に助けられる。
名前も聞けなかった軍人のことを胸に留めながらも成長したエレンはカルラの死後、男の身でありながら過酷な遊女の世界へ身を投じる。
五年後、カルラの美貌を受け継ぎ、客を取るようになったエレンは当時助けてもらった軍人にそっくりな顔をしたリヴァイと出会う。
体を売る遊女のことは嫌いだと言いつつもエレンの元に客として通い出すリヴァイ。しかし一度も床を共にすることなく苛立ちが募るエレン。
リヴァイの真意が汲み取れない一方で次第に心を通わせ始めるエレンを待っていたのは、籠の中の鳥という厳しい現実だった……

軍人リヴァイ×男花魁エレンの切なくて甘い恋物語。
モブ×エレンの軽い絡みがあるので注意願います。


表紙と躍動感のある挿絵をAYAKOさん に描いていただきました!


 体を売って、相応の対価を得る。
 例えどんな相手であろうと、どんな恥ずかしめを受けようと悦ぶフリをする。そうして、対価を得る。
 そこに自分の心など存在しない。
 誰にも心を許してはいけない。弱みを見せてはいけない。
 相手は所詮客。決して好きになってはいけない。
 本気になったら負けなのだ―――
 それが遊郭・マリアで生きる遊女の鉄則―――



1 至高の華――強く、儚く

※サンプル途中

「あぁエレン、ここにいたか―――」

 昼間、アルミンとともに井戸で洗濯をしていたエレンをハンネスが探しにやってきた。

「ハンネスさん、どうしたの?」
「すまねぇが、診療所に行ってカルラの薬をもらってきてくれないか?最近の流行り病のせいで今日は医者が往診に来られないらしいんだ。本当は俺が行くところなんだが、面倒くさい用事を楼主に頼まれてな。いま手が離せない。」

 エレンは以前ハンネスと一緒に診療所に行ったことがあるので場所はわかる。何よりカルラのためだ、エレンは力強く頷いた。

「うん、わかったよ。ハンネスさん。」
「これが薬代だ、陽が暮れないうちに行ってきてくれ。」

 ハンネスから薬代を両手で受け取り、エレンはその足で早速街へ行くことにする。鼓楼の長い廊下を走っていると、ちょうど風呂から上がったばかりの遊女たちが向かいからやってきた。

「あら、エレンじゃない?どうしたの?」
「ハンネスさんに頼まれてお使いに行く。」

 エレンは簡単な受け答えでそのまま横を通りすぎようとしたが、急に行く手を阻まれてしまった。

「な、何すんだよ!」
「大門の外に行くの?だったらおめかししないとねぇ?」

 ニタリといたずらな瞳が見下ろしてくる。エレンもアルミン同様、遊女たちの暇つぶしとして、時々遊ばれることが多い。だがいまはそんなくだらないことに付き合っている余裕はない。離せと暴れるが、びくともしなかった。

「ほーんとあんた。カルラ姐さんに似て綺麗な顔してるわよねぇ。ここに可愛いのがついているとは思えないわ。」

 遊女は恥じらいもなくエレンの下半身を指でツンツンと突く。この場から逃げ出そうと何とかもがこうとするが、他の遊女たちも調子に乗ってしまい、面白半分にエレンの体をズルズルと大部屋へ連れ込んだ。

「やめろよ!オレはハンネスさんに頼まれたお使いに行かないとならないんだから!」
「あ、こっちの着物の方が可愛くない?」
「ん~でもいまの季節ならこの紫陽花柄とかいいんじゃない?」

 皮肉にも楽しそうな声が聞こえる。エレンの背後でどうやら女の子用の着物を漁っては選別しているようだ。その一方で他の遊女が化粧道具を持ち出してきた。自分がいまから何をされようとしているのか、エレンはすぐに察した。

「いい加減にしろってば――!」

 男とはいえ、まだ八歳の子ども。数人の遊女に手足を抑えつけられてしまったら跳ね除ける力はまだない。それでもエレンは抵抗するのを諦めようとはしなかった。

「あんたたち!何やってるんだい!」

 エレンが必死に叫んでいるのを聞きつけてきたのか、普段遊女たちから恐れられている、遣り手の老婆が怒鳴り込んできた。しまった、見つかったという感じで、遊女たちはきゃーと甲高い叫び声をあげながら散り散りに逃げ去っていってしまった。

「まったくあいつらいい歳して子ども相手に遊びやがって。エレン、大丈夫かい?」

 時既に遅し。唇にはほんのりと朱い紅がひかれ、幼い顔に不釣り合いな艶やかさが増している、さらには唇と同じ色の地に大きな柄の花や蝶が彩られた着物を着た子ども――どこからどう見ても立派な女の子に仕上がっている。いつも険しい顔ばかりしている老婆の目が僅かに綻んだのをエレンは見逃さなかった。

「出かけてきます―――」

 着替えたり、化粧を落としたりしていたらそれこそ陽が暮れてしまう。エレンはハンネスから預かった薬代をしっかり握りしめ、そのまま鼓楼を飛び出した。塀で囲まれたマリアの唯一の出入口である大門をくぐり抜ける。なるべく人目を避けようと駆ける足を止めなかったため、すれ違う誰もが振り向いているのをエレンは知る由もなかった。

「これがカルラさんの薬五日分ね。いままでと同じ、朝昼晩の食後に一包と飲むように。こっちの流行病がひと段落着いたら往診に行くと伝えておいて。」
「はい、わかりました。」

 エレンは医者から薬が入った袋を受け取り、代わりにハンネスから預かった薬代を渡す。金額を確認した医者はエレンを観察するようにまじまじと見た。

「君……見かけたことのない顔だけど、最近双翼楼に来た子かな?」

 口から心臓が飛び出そうになる。医者とは何度か顔を合わせていて、カルラの息子であるエレンを知っているはずなのにやはり気づいていないようだった。

「そ、それじゃ……失礼します。」

 説明するのも面倒なので押し黙ったまま、右足を後ろに引いたエレンに医者は哀れみの言葉をかけてきた。

「君がどんな境遇で双翼楼に買われたのかは知らないけれど、医者の私から言えるのは、自分を大事にしてほしいということだけだ。」

『買われる―――?買われるって何だ?』

 エレンはハッとなる。そういえば自分は双翼楼が一体どういうところなのか詳しくは知らなかった。
 モヤモヤとした胸のつかえが取れず、エレンは無言のまま医者に頭を下げてその場を立ち去る。行きとは違い足が重く、俯きながらトボトボと歩いていたエレンは、背後から来た何者かに口を抑えられ引きずりこまれてしまった。

「あっ―――!」

 ドンと突き飛ばされ、エレンは尻もちをついてしまう。見上げると顔も知らない中年の男が立ちはだかっていた。エレンの頭のてっぺんから足のつま先までを這いずり回るようにじっくりと眺めてくる。気持ち悪さとともに身の危険を感じた。

「こ、こんなに可愛い女の子が一人で歩いているなんて、不用心だなぁ……まぁ…俺にとっては幸運だったけど……」

 ハァハァといかにも臭そうな息を吐きながらジリジリと距離を詰めてくる男。見回したが背後も両脇も建物の壁、ここは突き当りの路地裏で唯一の逃げ道は男に塞がれてしまっていた。

「だ、誰かっ―――うぐっ!」

 すかさず助けを呼ぼうとした口を掌で塞がれてしまう。厭らしげに目尻を下げた男の顔は、捕えた兎をなぶろうとする狼そのものだった。自分がこれから何をされるのかまったく予想はつかないが、ここから逃げろという本能からの警告が頭の中で鳴り響く。
 しかし、女一人跳ねつけられないひ弱な自分が大の男を押し退けられるはずもない。
 カルラに強くなると約束したばかりなのに――絶望感が襲うエレンの体は悔しさで震えていた。

「こんなにも怯えちゃって……大丈夫、抵抗さえしなければおじさん優しくするからね……」

 間近でフゥっと息を吹きかけられてエレンは顔をしかめる。生ごみのようで吐き出してしまいそうな気分だ。身を縮こませるエレンの着物の内側にゴツゴツと荒れた手を忍び込ませ、肌をまさぐりだす。あまりの嫌悪感に顔を引き攣らせた。

「や、やめろ……!」
「うーん、いけないなぁ?女の子がそんな言葉使いをしちゃ…君、マリアの子だろ?いずれは男に体売って悦ばせなきゃならないんだから、いまから可愛くしておかないとね……」
『体を……売る?男を悦ばす……?』

 頭が混乱する。確かにエレンがいる双翼楼には遊女と呼ばれる女たちが多くいる。カルラはその中でも看板花魁としてマリア一だともてはやされているが、実際に客を相手にしている姿を見たことが一度もないことにいまさらながらに気づかされた。

「どうしたの?考えごとかなぁ?」

 男の言葉使いがいちいち癪に障る。エレンが顔を横に背けたのが気に入らなかったのか、男は着物を襟元から強引に脱がした。

「やっ―――!」

 露わになる鎖骨と薄い胸元。左右には遠慮がちに色づいた小粒が添えられていた。男はまるで宝物を発見したかのような顔で鼻息を一層荒くした。

「滑々してそうで純真無垢な白い肌――食べちゃいたい……」

 男が顔を沈めていく。ぬっちょりとした舌が首筋に降り、エレンは体を強張らせた。

「や、やだ……!」

 目が滲む。だが男は一向に止めようとはしない。寧ろ夢中になって舌を鎖骨、さらには胸へと滑らせていった。

「やめて……だ、れか……」

 このままでいたら辱めを受けるのは確実。エレンの脳裏にカルラやハンネス、アルミンの顔が浮かぶ。

「だ、れか……た…けて……!」

 嫌だ、絶対に嫌だ。エレンの感情がついに爆発した。

「誰か……!助けて!……誰か!」

 最後の力を振り絞って暴れるエレン。だが男は力で抑えこもうとする。

「残念だけど表通りまで声なんて届かないよ、それにこんなところ誰も入り込んではこない。いい加減大人しく―――」

 突然男の動きがピタリと止まる。何が起きたのだろうと恐る恐る瞼を開けると、男の頭に銃を突きつけた影が見えた。

「おいてめぇ……こんなところで何してやがる?」
「な、何って……」
「まともに抵抗できないガキをいたぶってそんなに楽しいか?クズ野郎。俺がこの引き金を引く前にサッサと消え失せろ。」

1-400.jpg


 瞬時に顔を青ざめさせた男は大人しく言葉に従う。逃げ去る男の背中をその影は静かに見送った。恐怖から解放されたエレンは上半身を起こし、震えの止まらない体を抱き込む。一難去ってまた一難、今度はこの男に何かされるのだろうか――よく見ると、その男は軍服を着ている。双翼楼にやってくる客の中で、同じ格好をしているのを見かけたことがあった。

「大丈夫か?お前――」

 軍人はエレンと目線の高さを合わせ、乱れた着物を整えてくれる。思いがけない優しさに触れ、戸惑いを隠せないエレンは無言のままぎこちなく頷いた。

「あれはお前のか?」

 エレンは思わずあっと声をあげる。ここに強引に引きずり込まれたとき、医者にもらったカルラの薬が飛び散ってしまったらしい。中身が出ていないのが幸いだ、エレンは慌てて薬包を拾い集める。すると軍人も手伝ってくれた。

「これが最後だ……数は合っているか?」

 最後の一包を受け取り改めて数える。五日分の薬があることを確認したエレンは安堵し肩で息をした。

「あ、ありがとう……」

 エレンは深々と頭を下げ、逃げるように軍人の横を通りすぎる。感謝はしているが、たったいま見知らぬ男に襲われたばかり、人間不信になるのは当然だ。助けてくれたからといってこの軍人だっていつ気が変わるかわからない。

「おい、待てガキ。もう陽も暮れかかっている。またいつさっきのような奴に襲われるかわからねぇぞ。」

 エレンはピタっと足を止める。このまま逃げ去ってしまえばいいのに、どうしてそうしたのか自分でもよくわからなかった。

「それを言ったら軍人さんだって信用できないでしょ?」

 小さな子どもに一本取られた気分なのか、軍人は切れ長の目を一瞬だけ丸くし、プッと小さく噴き出した。

「ガキのくせにいい心がけだ。ならこれをお前にやろう。」

 軍人は胸元から何かを取り出し、エレンに渡す。見たこともない鋭利な刃物だったので、ぎょっとして落としそうになった。

「な……何?」
「これはナイフってやつだ。小型で折り畳み式だから持ち歩くのに便利、ガキでも十分扱える代物だ。」

 軍人は慣れた手つきでナイフの刃を出したりしまったりしている。エレンが知りたかったのは使い方などではなくて、どうして自分にこんなものを渡すのか、ということだった。

「これをどうしろっていうの……?」
「俺は軍人だ。お前たち市民の安全を守る義務がある。もし信用できねぇっていうならそれで俺を刺しても構わない。」
「はぁ?な、何言ってるの?」
「お前の信頼を得るにはそれくらい必要だろう?」

 自分で渡したナイフで刺せなどと、気が狂ってるとしか思えない。だがそれが逆にエレンの中で軍人に対する信頼感が生まれた。

「へ……変な軍人……」

 突拍子もないことを言う軍人にエレンは観念し、逃げるのを止めた。茜色に染まった空が東から段々と闇に覆われ始めている。このままだと大門に辿りつく前には陽が暮れてしまう。
 完全に信頼したわけではないが、少なくともこの軍人がいればさっきのようなことは起きなさそうだ。自分の身の安全より早くこの薬をカルラに届けたい気持ちでいっぱいのエレンは、行くぞと言って伸ばした軍人の手を素直に握った。

「お前の家はどこなんだ?送ってやる。」
「えっ……と、マ、マリア……」

 消え入りそうな声で答えるエレン。さっきの医者やエレンを襲った男の言葉を聞いて、何となく自分の出身を口にするのは気が退けてしまっていた。

「そうか……誰か具合が悪いのか?」

 マリアの子と聞いてどんな返事が来るのだろうと身構えていたエレンだったが、軍人があっさりと話題を変えてきたので拍子抜けしてしまう。

「母さんが病気で……それで薬を受け取りに……」
「なるほどな……手伝おうとする心意気は買うが今度は誰かと一緒に行く方がいい。このあたりは最近物騒なんだ。同じ目に合いたくはねぇだろう?」
「うん……」

 気持ちが沈むエレンの目の前を小さな光がふよふよと漂う。幻でも見ているのだろうかと思い顔を上げると、いつのまにか数えきれない光の粒が二人を取り囲んでいた。

「そうか……もうそんな季節だったな……」
「え……な、何これ……」

 驚くエレンとは対照的に軍人は一人で納得しているようだ。伸ばした指先に光の粒の一つが停まる。軍人はぼんやりとした優しい光が灯った指をエレンに見せてくれた。

「これは蛍というんだ。ちょうどこれくらいの時期……夏前にこうして水辺によく現れるんだが、こんなにたくさんの蛍を見たのは俺も初めてだ。」

 宵闇に浮かぶ蛍の光の群れ。夢の中にいるように感覚に捕らわれ、エレンは目を輝かせながら駆け回る。軍人はエレンのはしゃぐ様子を見守っていた。

「すごい……すごい綺麗……!蛍…生まれて初めて……」
「やっと笑いやがったな……」
「え……?」
「ガキは無邪気に笑っているのが一番だ。」

 目を綻ばせる軍人の柔らかな表情に、体が熱くなるのを感じる。エレンは首をブンブンと横に振り、火照った顔を冷まそうとした。

「いつまでもガキじゃいられない。もっと強くならなきゃ……母さんを守れない。」

 軍人の手を強く握り揺るがない決意を語るエレンの頭が撫でられる。大好きなカルラとはまた違う、強さの中に優しさがある逞しい温もりだった。

「お前はこれからいろんなことに向き合わなければならないはずだ。辛い思いもするだろう。」
「軍人さん……?」
「くじけそうになっても自分を信じろ――」

 軍人の言葉がエレンの胸にずしりと重くのしかかり、やがて浸透していく。まだ出会ってまもないが、この人は信用してもいいのではないか――エレンは蛍を眺めながら考えていた。
 そこからしばらく川沿いを歩いていくと大門が見えてくる。その前ではアルミンが心配そうな顔で立っていた。

「アルミン!」

 大きな声で呼ぶと、エレンの姿を見たアルミンの顔がパッと明るくなる。やっと帰ることができた――安堵したエレンはアルミンの元へ駆け寄った。

「陽が暮れても帰ってこないから心配で、ハンネスさんと一緒に探していたんだよ?」
「ごめん、アルミン……途中で変な奴に襲われたんだけど、あの軍人さんが助けてくれて……」
 振り返るとそこにいたはずの軍人の姿が忽然と消えている。驚いたエレンは周囲を探したが見つけることができなかった。
「アルミン、軍人の姿を見なかったか?黒髪で、ちょっと怖そうな顔していて、背は……確かこんくらいで……」
「ううん……?僕がエレンを見つけたときには軍人の姿なんて見なかったけど……?」
「え……そんな馬鹿な……」
「それより、早く戻らないと!皆心配しているよ。」

 アルミンに腕を引っ張られ、エレンは後ろ髪を引かれながらもう一度大門の方角を振り返る。滅多に外へ出ることのできないエレンがさっきの軍人と再会できる可能性は限りなくゼロに近い。

『あの人の名前、聞けなかった―――』

 早くカルラに薬を渡さなければならないという一方、エレンの胸の中は軍人のことでいっぱいになろうとしていた。




2 蕾~憎しみと失意と~


※サンプル途中

 それから一年後――ついにペトラの身請けの日取りが決まった。身請け自体は決まっていたのに、一年という長い時間がかかったのは、オルオがペトラを妾でなく、正妻にしたいと言い出したことで揉めていたらしい。オルオの粘り強い説得についに当主も折れ、ペトラは正妻として輿入れすることになる。花魁としては誰もが憧れる理想の人生と言えた。
 同時にエレンが男花魁となることも決まり、マリア中に衝撃が走った。またもう一人、エレンと同い年のミカサも花魁となり、双翼楼は二枚看板を立てることがピクシスの方針によって決まった。
 エレンは他の遊女たちとは違い、男に媚びることは一切しない。張り見世でも色目を使って男を誘ったりしない。ただいるだけで、その仕草を見るだけで、男たちが惚れ込んでしまうという独特の魅力を持っていた。エレンと寝たいという客は後を絶たず、一度床を共にした者はエレンの虜となり、常連になりたいと迫ってくるのだ。
 そのためピクシスはエレンに限っては客を選ぶことができるようにした。エレンには金を持っていそうな銀行の取締役や貿易商、政府の高官などが常連としてつくようになっていた。これほどの勢いがあればエレンが花魁へ昇格するのも誰もが納得がせざるを得ない状況といえた。

「エレン、今夜は私の座敷に付き合ってくれないかしら。」

 その日、朝食を済ませたエレンを追ってきたのかペトラが声をかけてきた。

「はい、今日のお座敷はオルオさんですか?」
「えぇ……何人か軍の上司の方とか連れてきてくださるみたいなの。ミカサとアルミンにも声をかけてあるから……」

 軍の人間と聞くと自然と胸も高鳴る。もしかしたらあの軍人のことを知っている者に会えるかもしれない。エレンがいつもより元気のいい声で返事をしたので、ペトラを驚かせてしまった。

「す、すみません!つい……」
「あらエレンたら……どなたか気になる軍人でもいるの?」
「い、いえ……軍人の客ってオルオさんくらいしか知らなかったものだから……ちょっと興味があるだけです。」

 何とか笑いながらごまかすエレン。ペトラはクスクスと楽しげに笑った。

「最近のエレンはがんばりすぎているところがあるかと思っていたけど……安心したわ……」
「ペトラさん……オレは別に……」
「ここまで来ることができたのもエレンが努力しているからよ。でも焦っては駄目。花魁になってからも辛いことはあるわ。」
「わかっています……」

 エレンにアドバイスしてくれるペトラはまもなくいなくなってしまう。口ではわかっているとは言ったものの、やはり寂しさは込み上げてくるものだった。

「そうだ……これからバタバタしてしまうだろうから忘れないうちに渡しておくわね……」

 ペトラは髪に刺していた簪をエレンの髪に刺した。

「ペトラさん、これは……?」
「この簪はね、カルラ姐さんから譲り受けたものなの。」
「母さんから?」

 エレンが手にした簪は派手な作りではないが、花の装飾の部分には赤い不思議な色をしたものが嵌めこまれている。他の遊女の簪では見たことのない、高級品だと一目でわかった。

「そう……確か、エレンをお腹に身ごもったあたりだったと思う。その石ね、珊瑚っていうんだって。」
「珊瑚……って?」


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 ペトラ曰く、珊瑚は海というところにあるものでこうした装飾品によく使われるらしい。しかし、海という単語でさえ初めて聞くエレンの頭の中は疑問が浮かぶばかりだった。

「ごめんなさい、実は私も良くは知らないんだけど、この世には海って空よりも深い青がどこまでも続く広いものがあるらしいわ。私は生まれが山里だったから、海は見たことないのよ。」
「世の中にはまだまだ知らないことばかりなんですね……」
「その簪には幸せになれる願いが籠っているからって……詳しいことは聞けなかったけれど、確かに効果はあるのかもね。これはエレンが一人前になったら渡そうって決めてたの……」
「ありがとうございます……」
「でもまさかこの簪がエレンの手に渡るとはカルラ姐さんも思ってはいなかったでしょうね……」

 確かにそうだったのかもしれない。エレンは苦笑いを浮かべながら簪を包みこんだ両手を胸にあてた。

「オレにとっての幸せ……見つかるかわかりませんが、この簪は大切にします。」

 ペトラの背中を見送ったエレンはもう一度、簪を見てみる。この珊瑚があるという海が一体どんなものなのか、いまは想像すらつかないが、エレンの興味をやたらと惹いた。

「海、か……一度でいいから見てみたいな……」

 その夜、ペトラの身請け相手であるオルオが上司と同僚二人を連れてやってきた。ハンネスに呼ばれ、ミカサとともに座敷へ向かうエレンの胸の鼓動がトクトクとやたら速く刻まれていくのを感じていた。

「失礼します。」

 挨拶して襖が開けられると、そこにはいつか見たことのある軍服姿をしたオルオたちがいまかと待っていた。

「ペトラ姐さんはまもなく参りますゆえ。それまでオレたちがお酌させていただきます。」
「おぉ!あれが噂のエレンか……!」
「本当に男なのか……?え?え?」

 どうやら遊郭に遊びに来ること自体初めてなのだろう。エレンの噂はあらかじめオルオから聞いていたようだが、実物を目の当たりにして手前にいる二人はとても信じられない、という感じだった。

「えぇ、オレはれっきとした男、エレンといいます。今宵はよろしくお願いいたします。」

 やはりエレンを実物で見る客の反応はどれも同じだ。ふぅっと心の中で溜息をつきながら、中へ入ろうとしたエレンはその場で一瞬固まってしまった。

「エレン、どうしたの?」

 後ろから続こうとしたミカサがどうしたのかと声をかけてくる。視線の先……一番奥の上座に座っている軍人の姿に釘づけになってしまっていた。

「エレン?どうしたんだ?」

 オルオもエレンの様子がおかしいと気づき声をかけてくる。エレンは一度唾をゴクリと呑みこんで、まずは動揺する気持ちを落ち着かせた。

「あ……いえ……すみません。軍人と聞いて怖い方ばかりかと思って気構えてきたんですが、気さくそうな方のようなので少し安心していたんです。」

 こうして誤魔化すことも自然と口から零れ落ちる。手前にいた二人の軍人はエレンに言われてそういうもんかと照れ笑いをするなど御機嫌もいいところだ。

「ところでオルオさん、紹介していただけますか?」
「あぁ……そっちにいる二人は同僚のエルドとグンタ。そしてこちらにいるのが俺の上司、リヴァイ・アッカーマン大尉だ。」

 紹介されてもこちらを見向きもしない。無愛想もいいところだが、エレンの胸の鼓動は必然的に速くなってしまう。

「リヴァイ・アッカーマン……大尉……」
「アッカーマン家は政府の要職に就く五大名家の一つ、子爵家だと聞いたことがありますけど……」

 ミカサの疑問にオルオは胸を張って誇らしげにそうだと答える。

「代々武術に長けた名家の一つだ。リヴァイ大尉は現当主である、ケニー・アッカーマンの甥なんだ。」
「オルオ……てめぇしゃべりすぎだ……」

 不機嫌そうに眉間の皺を寄せながらオルオを叱責するリヴァイ。そんな表情もあの頃と変わりない。昔エレンのことを助け、ナイフをくれた軍人にそっくりだった。

「あ……の……」

 真偽を聞いてみようとエレンが口を開いたそのとき、タイミング悪くペトラがやってきてしまった。エレンはさりげなく、リヴァイの横に座った。

「お注ぎしましょうか?」

 そう言うとリヴァイはスッと杯をエレンの目の前に差し出す。どうしよう、聞いてみようか……胸をドキドキさせながらエレンは杯になみなみと酒を注いだ。

「お前男なんだろ?何でこんなところにいるんだ?」
「何でって……」
「ここの楼主に無理矢理そんな恰好させられているのか?」

 こちらが質問しようとしたのに逆に質問をされ、珍しくエレンは戸惑う顔を見せてしまう。

「いえ違います……すべてオレの意志です………」
「自ら進んで遊女になったってわけか……フン、随分と酔狂なガキなんだな……」

 酔狂と言われてもエレンはもてはやされてばかりではない。同じ遊女の間でもエレンの美しさに嫉妬した者たちが陰口を叩いているところを直接聞いたことだってある。いままで一つも傷ついたことなどなかったが、リヴァイがエレンに向ける言葉には重みがあって、いちいち胸が痛みが走る。

「もう客を取っているのか?」
「えぇ……」
「道理で男を知っている顔をしているはずだ……」

 フンとリヴァイは小馬鹿にした顔で注いだ酒を一気に飲み干す。刺のある言い方しかしてこないリヴァイにさすがのエレンもカチンときていた。

「そんな風に言わなくてもいいのに……あなたは遊女がお嫌いなんですか?」

 何だろう、この気分。胸がモヤモヤして仕方ない。これ以上リヴァイの言葉を聞きたくなくて耳を塞ぎたくなり話題を変えようとエレンが口を開いた瞬間だった。

「気持ち悪くて胸クソ悪ぃ……」

 パァァァン――
 威勢のいい音が座敷中に響き渡り、それまで賑わっていた場の空気が一瞬にして張り詰めたものへと変わる。怒りが頂点に達したエレンは勢いのまま立ち上がった。

「何も知らないくせに!偉そうなこと言うな!オレはオレの意思でこの世界に足を踏み込んだ。それをあなたにとやかく言われる筋合いはない!


3 華よ、艶やかに咲き誇れ

※サンプル途中

 それからしばらくの間、リヴァイがエレンの元を尋ねることはなかった。仕事や家の用事で来られないことがあっても数日間空けることがなかっただけに、エレンの心はざわめくばかり。だがそれを他の客に悟られるわけにもいかず、エレンはずっとリヴァイのことを胸の片隅に留めながら日々を過ごしていた。
 もしかしたらもう自分に飽きてしまったのか?そんな不安が過ぎるようになった頃、ようやくお呼びがかかった。

「エレン、リヴァイ様がお見えだぞ。」

 このときだけは顔に出てしまったようだ。ハンネスが苦笑いを浮かべながら肩を竦める。エレンはリヴァイに対してだけは化粧を普段よりさらに薄めにし、あまり派手な髪飾りもつけないと決めている。支度を済ませ、逸る胸を抑えながら個室へと向かった。

「おひさしぶりです。リヴァイさん……」

 挨拶しながら襖を開けたエレンは驚く。何と部屋の中が真っ暗なのだ。

「も、申し訳ございません。すぐに灯りをつけますから。」
「いや、いい。行燈の明かりを消したのは俺なんだ。」
「え?一体、どうして……?」

 今日は新月のせいか、外からの月明かりもなく寂しい。暗くて不自由すぎるというのに、リヴァイは一体何をしようというのか。

「エレン、目を閉じていろ。」
「え……め、目を、ですか?」
「いいから言うことを聞け。」
「は、はいわかりました。」

 リヴァイの目的が何なのかまったく予想できないものの、エレンは素直に応じる。特に大事をしている雰囲気も感じられず、そっと薄目を開けてみようとしたが、逆に何をしてくれるのだろうという好奇心も沸いてきてギュっと閉じたままにしていた。

「いいぞ、目を開けてみろ。」

 やっとお許しが出てエレンはゆっくりと瞼を開ける。そのまま大きく見開くとともに声を上げた。

「あ、こ、これは……蛍?」

 暗闇に淡い光の粒が舞う。過去に一度目にした光景だった。

「花火もいいが、夏の風物詩といえば蛍だろう?」

 暗闇に包まれた部屋に舞う蛍たち。灯りなどもはやいらない。外の喧騒も消え、訪れる静寂はまるでこの世界にリヴァイとエレンの二人だけしかいないようだった。やがて一匹の蛍がエレンの指先に停まり、仄かな灯りが点された。

「すごい……昔見たときより、綺麗……」
「喜んでもらえて何よりだ。」
「でも、何でこんなこと……」
「しばらく来ることができなかった侘びのようなもんだ。着物や髪飾りなんて他の客からたんまり買ってもらっているだろう?そんな奴らと同類と思われたくねぇしな。」
「あ、ありがとうございます!本当にうれしい……」

 あのときとは目線の高さが違うが、幼いエレンの心に焼きついている軍人の顔がリヴァイに重なってしまう。聞かずにはいられない、いや、いまが聞くチャンスだとエレンの心を掻き立てる。

「あの……リヴァイさん、ずっと昔、オレと一緒にこうして蛍を見たことありませんか?」
「何でそんなこと聞く?」
「オレ……昔、リヴァイさんにそっくりの軍人に会ったことがあるんです。そのとき一緒に蛍を見たことがあって、ずっと忘れられなくて……名前も聞けなかったし、まともに御礼を言ってなかったので、いつか会いたいって思っているんです。」

 胸がドキドキして、早口になってしまう。

「昔か……いつのことかわからねぇが、俺は日本に来てまだ十年くらいだ。」
「十年前……」

 エレンがあの軍人に会ったのは八年前。時系列的に合わなくはないが、いまの口ぶりだとリヴァイではないのだろうか?多少期待していただけに落胆していると、指に停まっていた蛍がユラユラと揺られながら離れていった。

「そういえばお前にはまだ俺のことは話してなかったか……」
「オルオさんから少しは聞いていました。リヴァイさんが五大名家の一つである子爵家の後継ぎだって……」
「後を継ぐっていっても俺の叔父・ケニーアッカーマンは元気があり余ってるからな。ただあいつにはなかなかガキができねぇもんだから万が一の駒として傍に置かれているにすぎねぇ。」

 代々武術に長けたアッカーマン家は軍の最高職を務めている。そのためリヴァイも日本に来て早々軍に入れられたのだ。

「俺はもともとドイツで生まれた。娼婦だった母親が物心つく前に死んで一人でいたんだが、いきなり叔父だと名乗るケニーに呼ばれて半ば強引に日本に来させられた。」
「しょ、う…ふって……?」

 昔のことを思い出しているのか、リヴァイはどこか遠くを見つめながら哀しげに目を細めた。

「お前たちと同じ、体を売って金を得るのを商売にしている女たちのことだ……向こうでは娼婦って呼ぶ。」
「そうなんですか……知らなかった……」

 子爵家の人間と聞いていたので、何不自由なく生きていたのだろうと勝手に思い込んでいたことをエレンは恥じた。母親が体を売る商売をしていて幼い頃に亡くなっている。あまりに似た境遇を持っていたことに、エレンはリヴァイを身近に感じた。

「母親の影響で俺は娼婦っていうのがどうも好きになれねぇ。最初お前につらくあたっちまったのもそのせいだ。」

 だから気にするなとリヴァイはエレンの頭を優しく撫でてくれる。その優しさがいまのエレンには逆に苦しく感じた。

「でも、だったらなぜリヴァイさんはオレの元に……?オレだってその……客相手に体を売ってるんですよ?」
「何度も言ってるが俺はお前自身に興味がある。あのとき、俺の頬を叩いたお前の瞳に惚れたと言ったら信じるか?」
「え……?ちょっといきなり何を?」

 突然リヴァイの口から惚れたなどと聞き、否が応にも胸が高鳴ってしまう。真っ赤になる顔を見られずに済んで部屋が薄暗くてよかったとつくづく思った。しかし、そんな思いとは裏腹にリヴァイは遠慮なくエレンとの顔の距離を詰めてくる。後ろに後ずさろうとしたが、腰に腕を回されエレンは逃げ場を失っていた。

「花魁としてのお前じゃない、素のお前を暴いてみたい。そう思うようになったんだ。この俺が他人に対してこんなにも執着するのは初めてだ。」
「オ……オレは花魁として生きていくって決めたんです。だからそんなことしないで……」
「頑なに花魁の面を被るお前の素を引き出すのがいつのまにか楽しくてたまらなくなっていた。俺は酷い奴なんだよ。」

 リヴァイの吐息がかかる。咲いたばかりの花のような香りに酔いしれそうになり、へなへなと腰が砕けたエレンの体をリヴァイの逞しい腕が支えてくれた。

「リヴァイ、さん―――」

 今日はもちろん口の端にビスケットはついていない。エレンはリヴァイの瞳に釘づけになっていた。

「だからもっと、俺にお前のすべてを曝け出してみろ――」

 重なる唇――抵抗などできるわけがない。いままで触れることさえあまり許してくれなかったリヴァイの温もりを、吐息を、柔らかさをこんなにも近くに感じることができるとは――突然のことに気持ちが追いつくことができなかった。

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「ふぅっ……んん、…んんん―――」

 何度も何度も角度を変えながらリヴァイはエレンの唇を貪り出す。隙間から割り込んできた熱い舌が絡まってきて、強く吸い上げられる。

「ん、んんっ……ふぅ、…んん―――」

 与えられる刺激が全身を襲い、足の指先を丸める。エレンの思考は蕩ける一方だ。

『この人……こんなにも激しい人だったなんて……』

 熱くて、甘くて、心地よくて――時間が経つのを忘れながらエレンもリヴァイを求める。クチュクチュと時折混ざる厭らしい水音がエレンの耳をくすぐりながら犯していく。
 時間も経つのも忘れ、貪り合っていた唇が離れていく。まだ名残惜しいと銀色の糸が二人の間を繋いでいたが、やがては消えていく。嫌だ、もっと触れていたい。エレンはリヴァイの首に巻きつくように両腕を回し、目を潤ませながら強請った。

「リヴァイ、さん………お願い、抱いて……オレ、あなたのことが欲しい……もぅ、待ちきれない……」







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