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唇から伝わるエトセトラ

今年1月の壁博に出したペーパーです。
キスからいろいろわかります。



唇から伝わるエトセトラ


「ん――――」

 吐息が漏れる。触れたのは唇なのに、胸の奥からジワっとした痺れが熱とともに体の中へと伝わっていく。
 いつもこの瞬間が好きだ――
 熱だけでなく、気持ちさえも感じることができるのは、相手がリヴァイだからかもしれない。もちろん他の者で確かめたことなどないし、そのつもりもさらさらない。そもそも自分がリヴァイ以外の人間とこういうことをするなど想像すらできないのだ。
 初めてキスをしたとき、冷たいと思っていたリヴァイの唇が想像より熱かったことにエレンは驚いた。何も考えられなくなって体だけでなく頭の中までもがボーっとしてくる。フワフワと宙に浮いている感覚がしてなんとも心地よくてたまらない。
ずっと、いつまでもこうしていたいと願うのだ。
 もっと深くなっていくはずなのに、フッと唇が離れていってしまう。エレンは胸に寂しさを覚えながら閉じていた瞼を開けた。

「どうかしたんですか?」

 リヴァイがめずらしく困ったような表情をしているように見える。気づかない間にリヴァイの気に障るようなことをしたのか不安になるが、思いつくことが何一つない。エレンはジッとリヴァイを見つめた。

「エレン。その表情は俺の前だけにしておけ、いいな?」
「え?オレ、そんなに変な顔していますか?」

 ほんのりと赤く染まった両の頬を掌で覆い、エレンはあわあわと視線を彷徨わせる。その表情、と言われても鏡が傍にあるわけではないので自分でもよくわからず戸惑うばかりだ。

「お前、いつもキスしているときはずっと物欲しそうな目をしてるんだよ。自覚ねぇのか。」
「え?えっと……オレ、そんなつもりは……」

 反射的に否定しようとしたが途中で言葉を詰まらせてしまう。確かにキスをすればするほど物足りなくなって、胸の奥底から湧水のように欲が溢れ出してくる。家で二人きりのときなら本能のままに求めてしまうのだが、いまのように仕事中(不謹慎と言われればそれまでだが)に突然リヴァイからキスされることもあるのでそのときは自分を抑えるのに必死なのだ。
 後に引き摺らないためにもなるべく顔に出さないようにしていたつもりなのだが、元々嘘をつくのが苦手な上にリヴァイをごまかせるはずもなかった。

「そうかもしれないけれど、そもそもリヴァイさ……兵長が場所もわきまえないでキスなんかするから!」

 照れ隠しの八つ当たりもいいところだ。エレンは頬をぷぅっと膨らませそっぽを向くものの、添えられたリヴァイの長い指によってクイっと直されてしまう。

「何だ……?俺とキスをするのが嫌なのか?」
「そ、そんなことあるわけないじゃないですか!もっと時と場所をわきまえてほしいだけですっ!」

 リヴァイは満足そうにニヤリと口の端を上げた。どうやらからわれているのだということにいまになって気づく。

「やっとお前と二人きりになれたんだ。場所なんかわきまえてられるか。」

 リヴァイは朝から調査兵団幹部の会議にずっと出ていて解放されたのは陽もとっぷり暮れた後。執務室で一人待機していたエレンの姿を見つけるなり、まるで鬱憤を晴らすかのようにキスの雨を降らせてきたのだ。そんな状況で自分を抑えられるほどまだ大人になりきれてはいない。
 それに、寂しかったのはリヴァイだけではないのだ。

「そういう兵長こそ、こんなことするのはオレだけにしてくださいね?」

 人類最強と言われ、皆の憧れの存在であるリヴァイに対し、大胆な独り占め宣言。我ながらいまにでも顔から火を吹いてしまいそうだ。小刻みに震えるエレンの体をリヴァイはその腕で包み込んだ。

「当たり前だ……俺はお前だけのものだからな。」

 トクンと胸が高鳴る。そこから湯水のように湧き出す気持ちはもはや止めることなどできない。人を好きになるということは不安や悲しみを伴うこともあるが、こんなにもうれしくなれるものなのか――目の奥がジワっと熱くなるのを感じながらエレンは想いの言葉を紡ぐ。

「オレの心も体も全部、兵長の……リヴァイさんのものだから……だから、お願い……絶対に離さないで……」

 エレンは背中に回した手でリヴァイのジャケットをギュっと掴み、顔を埋める。リヴァイは子どもをあやすかのようにエレンの後ろ頭を優しく撫でてくれた。

「―――不安か?エレン……」

 エレンは顔を埋めたまま首を横に振って否定する。

「幸せすぎて……夢ならこのまま醒めなければいいのにっていつも思います。」
「夢なんかじゃねぇってこと、いまからでも思い知らせてやるがそれでもいいか?」

 いつもだったらまだ仕事中ですよ?と諌めただろう。だがエレンは何も言わずにただクスリと口元を綻ばせた。

「そういえば部屋のドアの鍵、閉めましたか?」
「大丈夫だ、ぬかりはねぇよ……」
「ふふふ……さすがですね、リヴァイさん……」
「余計なことはいいからお前は俺だけのこと考えていろ……いいな、エレン」

 開け放しの窓からヒンヤリとした夜の風が二人しかいない部屋へと流れこむ。二人は寒さを凌ぐように互いの体をさらに引き寄せる。トクントクンと静かに刻まれるリヴァイの心臓の鼓動を聞きながらエレンは静かに目を閉じた。

「だったらもっとキスしてください。オレの中をリヴァイさんでいっぱいにしてください。」

 恐らくいまの自分はリヴァイの言う物欲しそうな顔をしているのだろう。リヴァイの瞳の奥が獲物を狙う獣のような輝きを放つ。エレンの背筋がゾクゾクと震えたのは怯えたのではなく、期待に満ちたものだった。

「あぁ……任せておけ。」



 今日も長い夜が始まる――
 これから訪れる未来を二人で一緒に紡いでいけたらと願いつつ、リヴァイとエレンは離れないよう互いの指を絡ませた。

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