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SCC24新刊「美しき狂獣の檻」サンプル①

無事脱稿しました~!1月のインテと壁博で無料配布したオメガバースパロ
「美しき狂獣の檻」完全版のサンプルです。
完全版は無料配布本部分も加筆・修正させていただいています。

5/3 SUPERCOMICCITY 西2ホールP58a Mikeneco Cafe
5/10 第6回壁外調査博 スペース未定 Mikeneco Cafe



美しき狂獣の檻
文庫サイズ/200P前後/900円/フルカラーカバー・帯付R-18

憧れの文庫本なのでカバーと帯もつけました!最初で最後になるかも(笑)

とらのあな予約→ コチラ
※4/7通販予約終了しました。壁博後の在庫状況で追納する予定です。 


【あらすじ】

囚われたのはお前か―ーそれともこの俺か―ー

アルファ、ベータ、オメガの遺伝子による階級差別からあぶれた者たちが集う【特区ウォール・マリア】はどの国にも属さない、いわば無法地帯。武器や麻薬の密輸、人身売買、サイバーテロ、そして殺人が日常茶飯事となっている巨大な裏市場を手中に収めるため、世界の大国が介入し抗争が行われていたこの特区を統べる者が現れる。

ウォール・マリアに君臨した闇の王―リヴァイは優れたアルファの遺伝子を持ちながらその素性がまるっきり明かされてない一方、圧倒的な強さと洞察力、そして統率力を備えている絶対的な支配者。このため世界の大国はウォール・マリアから撤退せざるを得なくなり、リヴァイによって均衡が保たれることとなった。

数年後、リヴァイは会合の帰りにゴロツキに追われていたオメガの少年を助ける。
エレンと名乗るその少年はトロスト国の裏社会のトップ・ピクシスが探している謎めいた存在。記憶が曖昧なエレンに普通のオメガと違う何かをアルファの本能で感じたリヴァイはそのまま匿うことにする。
だが、エレンが放つ特殊なフェロモンの甘い誘惑に逆らえなくなってしまい、決して触れてはならないパンドラの箱を開けてしまう。

エレンが追われている理由は何か?
都市伝説化した『幻のオメガ』とは……?

リヴァイとエレンの出会いがやがてウォール・マリア、引いては世界を大きく動かす事態となる。



※直接ではありませんがモブエレ表現有るので注意願います。
※シリアス展開ですが最後はハッピーエンド。ただし、リヴァイとエレン以外のキャラで死ネタがありますのでこちらも注意願います。

R-18の内容なので閲覧は自己責任でお願いします。

アルファ、ベータ、オメガ――人類が三種の遺伝子によって差別化されているこの世界でオメガは最も希少種とされている。その中で数百年に一度生まれるかどうかという幻のオメガなるものが存在すると昔から人々の間で遠い記憶として語り継がれていた。
 幻のオメガ――アルファ、ベータ、オメガすべての起源となる遺伝子を持っており、人間と獣が混じり合う、まるで絵画から飛び出したような美しい獣人の姿をしているらしい。
 さらに幻のオメガは普通のオメガとは違い、発情期というものがない。自身でフェロモンの放出をコントロールとできるというのだ。強いフェロモンの影響を受けたアルファは性欲を掻き立てられるどころか、幻のオメガの前に平伏すしかなくなる。
 まさに人類の頂点に立つ存在――
 しかしその一方で幻のオメガの姿が確認されたことはただの一度もない。そのため幻のオメガ自体、誰かが作り上げたデマではないかとも思われていた。
 だがそれを覆す出来事が起きる。数十年前、東欧のある都市で撮られたという動画がインターネット上に投稿された。そこに映し出されていたのは夜空に浮かぶ月に向かって佇むシルエット。尖った耳に長い尻尾がある一方、月の光が逆光となって顔はよくわからなかったがどう見ても人にしか見えない。しなやかな体をした美しい獣人の容姿をした少年だった。
 幻のオメガの遺伝子を手に入れた者は世界を支配できる――
 僅か数十秒の動画が公開されたことにより世界中の遺伝子学者、ひいては国家元首までもが皆躍起になって我先にと幻のオメガの大規模な捜索が始まった。だが結局誰もその痕跡さえ見つけることができず、動画の投稿者も突き止めたが行方不明。
 幻のオメガはもはや都市伝説と化していった。

  *    *    *

 人間というのは愚かな生き物だ。自分は正しいのだとどんなに正義を貫こうとも最後は欲にまみれて自滅する。優れた遺伝子を持つアルファ性であろうとも結局は己の欲に支配され、周囲を巻き込んで絶え間ない争いを引き起こし、数多くの犠牲を生み出していく。
 長い歴史の中でそんなことをずっと繰り返してきた報いなのか世界は真の闇を生み出してしまったのだ。
 南半球にある大陸の東側に位置する特区ウォール・マリア――聖書に出てくる聖母と皮肉にも同じ名前をつけられたその場所はどの国にも属さず公には存在を明かされていない、いわば無法地帯。周囲を高い壁で囲まれ、外から来る者を拒絶する作りをしている。
 遺伝子による厳しい差別から逸れた者たちが集まる、この世界の闇ともいわれているウォール・マリアには政府や役所、警察などという公的機関は一切存在しない。そのため自由に出入りができるものの当然命の保証はない。ここでは公にできない闇取引や密輸、売春、殺人などが頻繁に起きている。一度巻き込まれたら最後、どこまでも追いかけられ必ず命を奪われるのだ。
 世界に闇ルートを持つ三大国の巨大マフィアによってウォール・マリアの均衡は保たれていたが数年前、突如現れた一人のアルファの人間によって均衡は破られる。
【闇の王】と呼ばれ、恐れられる彼の詳しい素性は明かされていない。彼はウォール・マリアを支配していた三つのマフィアをその高度な知能と力で排除し、世界中を驚かせた。事態を重く受け止めた各大国からスパイが何度も送り込まれたものの、皆無残な屍となって帰ってきてしまう。このためどこの国もウォール・マリアへの介入を諦めしばしの間静観することにした。
 彼の名はリヴァイ――
 ウォール・マリアを支配する闇の王の傍にと擦り寄ってくる輩は後を絶えないがリヴァイの取り巻きは少ない。彼は真に心を許す者しか傍に置かないことで有名で、しかも取り巻きたちの実力も申し分ない。
 その日も外から来たばかりのならず者がリヴァイに取り入ろうとアジトを訪ねてきたのだが、あることがきっかけでリヴァイの機嫌を損ねてしまい、いままさに酷い拷問を受けていた。

「ひっ、ひぃぃぃっぃ!わ、悪かった!俺はウォール・マリアに来たばかりだからここでのルールとか何も知らなかったんだ。許してくれ!」

 男はまだ二十歳にもなっていないのだろう。このくらいの年齢になると若さゆえに大きな野望を抱きやすい。それはいいことなのだがここでの礼儀を知らなかったのが運のツキといえる。エルドは目の前で身ぐるみ剥がされて手足を縛られている男に心の内で少しばかり同情した。

「いい加減悪あがきはやめておけ。お前は運がなかったんだよ。ここに来る前に風呂でも入ってくれば……そうだな、もうあと一時間は長く生きられただろうにな……」

 男の額に向けた銃の引き金にかけている指の力を籠めようとしたその瞬間、背後のドアが開く音がした。振り向かずとも誰が部屋に入ってきたのかはわかる。エルドはがんばれよ、と男に発破をかけて銃口を離した。

「エルド、こいつから有益な情報は引き出せたか?」

 殺される恐怖でいまにも失禁しそうな男をリヴァイは無言のまま一瞥してからエルドの方を見た。

「めぼしいものは何一つないですねぇ。外から来たばかりのただのゴロツキのようです。」

 リヴァイに近づく輩の中にはこの特区を狙う周辺諸国のスパイや暗殺者が紛れ込んでいることが時々ある。その場合は数日間拷問をして必要な情報を引き出した上で殺し、見せしめとして送りこんできた国の国境付近にわざと死体を晒す。傍から見れば血も涙もない非情な行為ともとれるが、それこそが特区ウォール・マリアの闇の王の威厳を各国にしらしめることになり、極めて重要なことなのだ。

「そうか。だったらサッサと殺してしまえ。時間の無駄だ。」

 リヴァイからいとも簡単に突き付けられた死の宣告に、エルドは男に向かって再び銃口の狙いを定める。男は地べたを這いずりながら身を乗り出し命ごいをしてきた。

「ちょっと待ってくれ!俺がこれまで隠してきたとっておきの情報を教える。だから頼む、助けてくれ!」
「ほう……とっておきの情報だと?」

 男がコクコクと大きく頷く。リヴァイは右手を上げ、エルドに男を殺すのを止めるよう合図する。
 素直に銃を胸元のホルダーにしまったエルドだったが、やけに珍しいなと内心首を傾げた。男の話に興味が出たのか、それとも死ぬ間際の男の足掻きを楽しんでいるのかその真意は諮りかねる。
 リヴァイは近くにあったソファに深く腰をかけ、自らが愛用している銃を取り出し男の鼻先に銃口を充てた。

「そのとっておきの話がつまらねぇもんだったら、このまますぐにズドンだ。何が起きたかわからねぇうちにあの世に行ける。」
「ひっ……は、はい……」

 リヴァイの殺気を感じたのか男はさっきよりも青ざめた顔で二~三度深呼吸してから恐る恐る喋り出した。

「俺、つい先週この特区に来たばかりなんすけど、まだ右も左もわからないうちに迷ってしまって……そのとき見たんすよ。」
「何をだ?」
「あれは月が綺麗な夜だった。誰もいない廃墟ビルの屋上に佇む美しい獣の姿をした人間を。」

 呆れたエルドは長い溜息をつきながら頭を掻いた。

「おい、いくら死にたくないからといって、誰も信じられないような嘘をつくんじゃないぞ……」

 男はエルドの方を振り向き噛みつくような勢いで叫んだ。

「本当なんすよ!俺が見たのはネットとかで注目されている【幻のオメガ】に違いないっ!あれ捕まえたら破格の取引で売れるんじゃないんすか?」

 やっちまったなとエルドは苦笑いを浮かべるしかなかった。確かに幻のオメガは一時期世界中が注目していて、数十年前に動画が投稿されたときは大騒ぎになったので知らない者はいない。だが結局その存在を確認することはできず、いまは一部のマニアの間で暇つぶしのネタにしかなっていなはずだ。そんなハッタリをリヴァイが信じるとは到底思えない。この男の頭に風穴が開くのもあと少しかと思いきや、リヴァイは男の額に当てていた銃口をなぜか天井に向けて一発引いた。

「ひっ……ひぃぃ………!」

 ズドンと鼓膜が破れそうな音に男は身を飛び上がらせ、全身をガクガクと震わせながらリヴァイを凝視した。

「幻のオメガか……おもしれぇこと言いやがるなお前。すぐに殺すのはもったいないくらいだ。」

 どうやらリヴァイは男の話に興味を持ったらしい。手応えを感じたのか、恐怖でクチャクシャな顔をしていた男は強張らせたまま無様に笑った。

「さっ……すが、闇の王と言われる御方だ。見る目が違う!何ならいまからでも幻のオメガがいた場所に案内しますぜ。」
「あぁ……その必要はない。」
「え――?」

 間抜け面できょとんとする男をリヴァイは見下した目で見つめながら立ち上がった。

「エルド、こいつをハンジのところへ連れてってやれ。」
「え……リヴァイさん、まさか……」

 男は意味がわからずリヴァイとエルドを交互に見る。リヴァイの意図を察したエルドはつくづく運のない奴だとさすがに同情した。

「死ぬ間際でも何とか生き延びようとするお前の度胸はさぞやハンジのいい実験動物になるだろう。よかったな、これでお前は望みどおり生き延びることができるぞ。」
「じ………じっ、けん…どう……ぶつ?ま、まさか……マッド・サイエンティストのハンジ……?」

 サーっと男の全身から血の気が失われていく。ここに来て日が浅いながらもハンジの噂は耳にしていたようだ。リヴァイはフンっと鼻で笑った。

「あのクソメガネもそこそこ名が知れているんだな……そのまさかだ。このまま銃で殺されていた方がよかったと後悔することになるかもな……」
「ひっ、……やっ…やだぁぁぁぁぁぁぁ!」

 男が狂ったように暴れ出し、リヴァイに飛びかかろうとしたが首にかけていた鉄の鎖のせいであと一歩のところで届かず、部屋の隅で控えていたグンタとオルオに取り押さえられてしまう。エルドは二人に男を連れ出すよう命令した。
 男の悲痛な叫びがドアの向こうに消え、エルドは肩で息をつく。

「幻のオメガですか。俺もガキの頃に噂を聞いたことはあるんですが、確か既に都市伝説化していましたよね。まだ信じている奴がいるとは……」
「俺はあの男の言ったことが嘘だとは言ってねぇぞ。」

 リヴァイの言葉にエルドは思わず意外そうな声をあげた。

「それは意外ですね。リヴァイさんがそういったものを信じているとは……まさか幻のオメガを見たことがあるんですか?」

 するとリヴァイは何も言わずフッと口元を綻ばせる。出会ってからもう五年近く傍にいるが、リヴァイがこんな表情をするのは滅多に見たことがない。荒れ者ばかりが集う無法地帯・特区ウォール・マリアを統べる闇の王の和らいだ表情など見たら娼婦たちがさぞや悦んで擦り寄ってくるだろうと、エルドには容易に想像できた。

「そういえば今晩は外からの来客だったな、エルド。」
「え……あ、はい。トロスト国で幅を聞かせているマフィアのトップ、ピクシスとの会合は午後の七時から、場所はいつものハンネスのBARです。」
「あの爺さん、今度はどんな面倒くせぇ話を持ってきやがるんだ。」
「ピクシスからの依頼は面倒ごとでも我々に有益なものをもたらしてくれますからね。」
「あぁ…だから無碍に断れねぇ……」

 仕方ねぇかとリヴァイは諦めまじりの溜息をつきながら天井を見上げた。世界が一目置くリヴァイにはほぼ毎日のように闇取引やら密輸やらの話が持ち込まれる。それはすべて陽の光に晒すことのできない危険なものばかりだ。
 しかし、特区ウォール・マリアはこうやって各国に巣食う闇と取引きすることで影響力を広げている。一方でその国では取り扱うことができない危険なものでもウォール・マリアという市場を使えば足跡もつけず取引することができる。こういった点では持ちつ持たれつの関係なのだ。だからこそ各国はウォール・マリアに対しては見て見ぬふりをしており、それで世界の光と闇の均衡が保たれているといえる。

「年の功というところですかね。こことの付き合い方も熟知している。さすが東の大国、トロスト国の裏市場を長年仕切っているだけのことはあります。」
「あの爺さんは時々俺のことをガキ扱いするから気にくわねぇ。いつかシメてやる。」

 この場にピクシスがいないのをいいことに、リヴァイは毒舌を吐きながら出かける支度を始めた。面倒くさい相手でも礼儀だけはきちんとわきまえている。リヴァイは黒の上下のスーツに着替え、エルドを伴いハンネスのBARへと向かった。


 身に着けている腕時計はどうやら針が進んでいるらしい。ハンネスのBARに到着したときには午後七時を少し過ぎていた。
 ウォール・マリア中心部にある繁華街は多くの店が連ねており、昼夜関係なく賑わっている。そしてそこでは武器や薬の密輸、人身売買など表ざたにできない行為が黙認されている。だからこそちょっとしたトラブルからでも殺人が頻繁に起きており、翌朝になると死体回収業の連中が忙しなく働くというのが日常と化していた。
 BARの中に入ると席は埋め尽くされていて、いかにもガラの悪い連中が酒を浴びるように飲みながら大声で話している。間を縫って奥へと行った先にあるカウンターではマスターのハンネスがグラスを磨いていた。

「ハンネス、景気はどうだ?」
「リヴァイの旦那、いらっしゃい。最近は外からの流れ者が多いせいか喧嘩ばかりで困ってるんですよ。何とかなりませんかねぇ。」

 ハンネスはぼやきながらリヴァイに酒の入ったグラスを差し出す。周囲に気づかれないようにと、ハンネスはグラスとともに手に忍ばせたカード式のキーをリヴァイに渡した。
 何事もなかったかのようにグラスとキーを受け取ったリヴァイは酒を一気に飲み干し、空になったグラスをハンネスに返した。かなり度の強い酒だったらしく、感心したハンネスはヒューっと口笛を吹いた。

「いつも上等な酒が入ってきているようだな、ハンネス。」
「ここ数年流通が安定しているのもリヴァイさんのおかげですから。今後ともよろしく。」

 リヴァイは酒代と言わんばかりの金をハンネスに渡し、店の奥の一角にある幕で仕切られ場所へと進む。ここは一見物置のように見えるので客は見過ごしてしまだろうが、実はこの先にVIP専用の部屋がある。リヴァイは外からの客との密談はいつもここで済ますようにしていた。
 目隠し用のカーテンをくぐり奥へ進むと、古びた店の雰囲気とは一転、重く固い扉がリヴァイとエルドの前に立ちはだかる。ハンネスから受け取ったカードキーを扉の横にあるセンサーにかざすと、扉が開いたそこではピクシスが既に酒を優雅に飲んでいた。

「おぉ、来たか。リヴァイ、ひさしぶりじゃのう。」
「最近姿を見なかったのでてっきり裏の世界から引退したものだと思っていたが?」
「何を馬鹿なことを言っとる。ワシには引退の二文字はない。生涯現役じゃ。」

 ピクシスはかなり酒を飲んでいるようだが力強く否定をする。リヴァイが真向いのソファに腰をかけると、ピクシスは自分が飲んでいるものと同じ酒を用意していたグラスに注いだ。

「それで?あんた自らがここに直接やって来るということは、何か重大な事態でも起きたということなのか?」

 ピクシスはリヴァイが一目置く数少ない人間の一人。歳を重ねたといっても長年、東の大国トロスト国の裏社会を牛耳ってきたのだ。面倒だと思いながらできることなら敵に回したくないというのがリヴァイの本音だ。

「別にたいした話ではないんだがのう。人探しをしておるのじゃ。」
「人探し?」

 このウォール・マリアまで老体の身で出向いてきた依頼がただの人探しだということに虚をつかれたリヴァイが聞き返すと、ピクシスは部下に命じて一枚の写真を見せる。歳は十五~六歳だろうか、黒い髪にまだ成長途中であるしなやかな体をした一見中性的な顔立ちの少年が映っていた。
 ――ドクン
 写真に映る少年の姿を目にした瞬間、リヴァイの体の奥が大きく脈打つのを感じた。

『何だ……こいつは……?』

 過去に会った記憶などないはずなのだが、揺さぶられるものを感じる。リヴァイはピクシスに悟られないよう冷静を装った。

「この少年がウォール・マリアにいるという情報を嗅ぎつけてのう。見かけたことはないかの?」

 ピクシスが本音を上手く隠しながら探ってくるので、すぐに余裕を取り戻したリヴァイはどう返答したものかと遊び心に駆られた。

「あんたほどの人物が直々に探しに来るんだ。こいつはよっぽどの値打ちがつくということか?」
「親戚の息子なんじゃよ。親と喧嘩して家出をしたみたいでのう。頼まれて探しておったところ、このウォール・マリアでよく似た少年を見かけたという話を聞いて探しに来たのじゃ。」
「ウォール・マリアでは女、子どもの売買は日常茶飯事だ。特にこんな顔した活きのいいガキなら、ソッチの趣味がある豚野郎どもにとっくに薬づけにされて毎晩ケツに突っ込まれてるだろうよ。」
「ふむぅ……そうなる前に何とか保護をしたかったからお主に会いに来たんじゃが困ったのう……」
「ここは外から流れてくる人間が多い。そんな奴らの顔を俺がいちいち把握しているわけねぇだろ。」

 普通ならな――とリヴァイは口に出さずに少年の姿を目に焼き付ける。ピクシスもリヴァイをごまかし切れているとは思っていないようで、逆に腹を探られるのを避けるためか、手にしていたグラスの酒をテーブルに置いたピクシスの表情から笑いが消えた。

「わしは明日帰る予定だが、できればこの少年を探して保護してほしい。礼は弾むつもりじゃ。」

 そう言ってピクシスはすぐ横にいた部下に命じ、リヴァイに信じられないほどの多額の金額が書かれた小切手を渡す。代わりに受け取ったエルドは動揺のあまり声を詰まらせた。

「―――どういうつもりだ?」
「まずは手付け金というところじゃ。その少年を保護した際はさらに倍の額を渡そう。」
「たかが親戚の息子を探すにしては随分と太っ腹な額じゃなねぇか。このガキ、一体何者だ……?」
「……それ以上は無用の詮索じゃ。これはお主のために言っとるんじゃぞ。リヴァイ。」

 二人の間を流れる空気が一瞬にして凍りついたものへと変わる。リヴァイの横にいるエルド、そしてピクシスの背後に控えている部下がそれぞれ銃へと手を伸ばそうとしたが、ここはリヴァイが上手く止めた。

「この俺を人探しの犬に使うのはあんたくらいだよ。」
「わしはお主のことを犬などと思ったことなど一度もないぞ?お主はどちらかというと下手に手を出したら噛みついてくる手のつけられない獰猛な狼じゃろうが。」
「フン……勝手に言ってろ。」
「そろそろ番を見つけたらどうじゃ?お主ほどの者ともなると相手も引く手あまたじゃろうにもったいないのぉ……優秀な後継者を作る気はないのか?」
「後継者なんて面倒事は嫌いだし、そもそも興味がねぇ。それに俺はあのオメガ特有の鼻につく臭いが嫌いなんだよ。」
「お主の頭脳と身体能力……さぞかし優秀なアルファの遺伝子を持っとるんじゃろうが、オメガを嫌うか……本当におぬしはわしを飽きさせないのう……」

 これ以上ここにいても無駄なやりとりしかないと悟ったリヴァイは憎まれ口を吐き捨てながら席を立つ。ピクシスは飄々とした顔で、リヴァイに手を振っていた。

「彼の捜索はくれぐれも秘密裏に頼むぞ、リヴァイ。」
「あんたも帰り道で刺されないよう気をつけることだ。ウォール・マリアの夜はこの世界で一番物騒だからな。」

 嫌味を物ともせず、ピクシスは大好きな酒のグラスを片手にリヴァイの背中を見送った。リヴァイは内心舌打ちをしながら車に乗り込んだ。

「まったく……相変わらず食えないじいさんだ。」
「お疲れさまです、リヴァイさん。あの少年の件はどうしますか?」「ピクシスの腹の中がどうも気になる。それに……」
「それに……?」

 写真の少年の顔がリヴァイの頭の中を過ぎる。エルドに聞き返され、我に返ったリヴァイは少年のことが気になるというとは胸の中にだけ留めておくことにした。

「いや…何でもない。最近の闇売買リストをとりあえず洗っておけ。」

 骨の折れる作業だとエルドはぼやいた。一見何の特徴もない少年にピクシスがなぜそこまで固執するのか興味はある。それに少年の写真を見たときの衝動……リヴァイの胸の奥底で小さな熱がいまも確かに疼いているのだ。
 リヴァイは優秀な遺伝子とされるアルファ性。その才能がいかんなく発揮されたからこそ、世界の闇が集う特区ウォール・マリアを統べることができたともいえなくはない。
 ピクシスの言うとおり、そんなリヴァイの番になろうとするオメガたちが毎日のように強烈なフェロモンを放出しながらリヴァイを誘惑してくる。オメガのフェロモンに対してアルファは自制が効かなくなり、激しい性欲が沸き起こるはずなのだが、リヴァイはピクリとも反応することもなく、嫌悪感を抱くことしかできなかった。
 くされ縁であり、医学の心得もあるハンジの診断によれば、リヴァイはアルファの中でもちょっとした特異体質らしい。不能、というわけではなく、気が向けば女を抱いてそれなりに自身の性欲を処理することはもちろんある。ただ、オメガを相手にセックスをしようなどということはこれっぽっちも思わず、フェロモンによって性的欲求が高まることもほとんどない。
 もともと恵まれない家庭に生まれ、両親からの愛情を受けた覚えもなくウォール・マリアの闇で育ったリヴァイにとって、自身が番を得ることなど想像もできないのだ。

「危ないっ!」

 突然エルドが叫ぶと、後部座席でぼんやりとしていたリヴァイの体が大きく揺れる。何かを避けようとしたのか車はキキーっというタイヤの音とともに、向かっていたのとは百八十度真逆の方向に止まった。

「大丈夫ですか!リヴァイさん!」
 
 エルドが慌ててリヴァイの無事を確認する。咄嗟にかばったため頭をぶつけることなどはなかった。

「あぁ……何とかな……」
「くそっ!急に飛び出してきやがって……!」

 普段冷静なエルドを怒らせるとは、向こうもただで済まないだろうとリヴァイは少しだけ憐れむ。だが相手をとっ捕まえようと車の前に出たエルドが固まったまま動かないので不思議に思いながら外に出ると、ポツポツだった雨足が一気に強まり、辺りの路面を濡らしていった。

「どうした、エルド。」

 車の前には一人の少年が倒れ込んでいる。恐らく飛び出した張本人なのだろうがその顔を見たリヴァイは思わず息を漏らした。

「リヴァイさん。こいつ……さっき見た写真の少年では……?」

 同じことを思ったのだろう。エルドがリヴァイに問いかけながら少年の様子を詳しく見ようとしゃがみこむ。ボロボロの衣服の隙間から痣や傷のようなものが見え隠れしていた。

「どうやら気を失っているだけのようですが、詳しいことはここでは何とも……リヴァイさん。どうしますか?」
「こいつがピクシスの探している奴かもしれねぇ。誰にも見つからねぇうちにアジトへ運ぶぞ。」

 間が悪いというのはこういうことなのかもしれない。リヴァイの耳にこちらに向かってくる複数の足音が飛び込んできた。

「リヴァイさん?」
「ちっ……やはり、来やがったか………」

 リヴァイは舌打ちをしながらすぐ近くの細い路地裏の方を睨みつける。ここは繁華街から外れた裏通りで狭い路地が入り組んでいて、普段は人影もまばらだ。少しすると少年と同じ年齢くらいの柄の悪いゴロツキたちが数人現れた。

「エルド、お前はこいつを車の中に運びこめ。」
「リヴァイさん、だったら俺が……」
「おいおい、兄さんたち何やってんの?そいつは俺らの玩具なんですけどぉ?いい大人のクセに横取りしないでほしいなぁ?」
「お前ら……」

 エルドは頭を抱えた。どうやらこのゴロツキたちはリヴァイの顔を知らないようだ。知っていたらリヴァイの姿を見ただけで失禁でもして脱兎のごとく逃げ出してしまうだろう。

「俺が説得した方が早く済むだろう?」

 それ以上反論のしようがなく、大人しくリヴァイの言葉に従い少年の体を抱きかかえるエルドに襲いかかろうとしたゴロツキたちの前をリヴァイが阻んだ。

「兄さん、俺たちを説得するって?できるのかなぁ?」

 ゴロツキのリーダー格と思われる男が鋭い刃が輝くナイフをわざと見せつける。

「これ、ローゼ国の軍特注のナイフなんだぜ?一般市場では絶対に手に入らない。対テロ仕様だからある程度のプロテクタもぶっ刺しちゃうほどの威力があるんだって。」
「あぁ……それなら見たことがある。この前捕まえたローゼ国のスパイが所持していたからな。」

 リヴァイはニッと口の端を上げる。その場を一瞬で凍りつかせるリヴァイの雰囲気にゴロツキたちに悪寒が駆け抜けた。

「えっ……お前、何もんだよ……」
「そのナイフの威力ももう試したぞ。スパイの野郎の腕も足も……綺麗に斬ることができたからな。確かに切れ味は抜群だった。」

 リヴァイが一歩一歩、ゆっくりと近づく。男たちは竦み上がってしまい、固まって動けずにいた。

「ま…さか……お前は……闇の王!」
「残念だったな。ここに来てしまったのがお前たちの運のツキだ。」

 断末魔の悲鳴は夜のウォール・マリアに掻き消されていった。


 周囲を壁に囲まれた都市であるウォール・マリアの中心部にそびえ立つ唯一の超高層タワー。アジトに着いたリヴァイはエルドに少年を背負わせ帰路に着いた。
 自分もそうだがエルドも少年も雨に打たれて衣服はびしょ濡れ、体もすっかり冷え切ってしまっている。さらにリヴァイは不本意にも男たちの返り血を浴びていた。三人の姿を見たペトラがすぐに風呂の用意をしてくれた。

「リヴァイさん、お手伝いしなくても大丈夫ですか?」
「ここは俺がやる。エルド、こいつに関する情報をすべて揉み消せ。ペトラはそのサポートだ。」
「さっきの騒ぎでピクシスの部下が嗅ぎつけている可能性もありますがどうしますか?」
「構わない、そいつらを消せ。」

 この少年がピクシスの探している人物だとしてもリヴァイは端から引き渡すつもりはなかった。長年付き添っているだけのことはあって予想どおりの回答だったらしい。エルドは口の端をニヤリと吊り上げた。

「ウォール・マリアで死体が転がらない日はないですからね。」
「そういうことだ、エルド。俺はこいつを調べる。」

 エルドとペトラが出ていくのを見送ったリヴァイは、まずは濡れて肌に張りついてしまっている衣服を剥がす。少年の額に手を乗せるとほんのりと熱く、呼吸も荒い。ずっと雨に打たれていたせいか予想どおり熱が上がってきているようだ。ペトラが用意してくれた解熱剤のカプセルと水を自らの口に含み、少年の柔らかくて弾力のありそうな唇に重ねた。

「ん―――――」

 ピクリと反応を示した少年は瞼を震わせながら吐息を漏らす。飲みきれないのかリヴァイから送った水が僅かな隙間から零れ落ちていった。

『こいつ………!』

 ドクンと胸が大きく脈打つ。リヴァイは危険を察し、すぐさま唇を離した。吐き出さないので薬を美味く呑み込んでいるのであればそれで十分だ。

「――――ここは……?」

 目を覚ました少年は大きな銀色の瞳を戸惑わせながら不安げに周囲を見回す。ここに来る前、あのゴロツキたちによからぬ薬でも飲まされたのか意識が朦朧としているように見えた。

「お前を追いかけていた連中なら俺が片づけた。もっとも、ここが安全な場所かどうはお前次第だがな……」

 少年はリヴァイをジッと見つめた。

「あなたは、誰――――?」
「俺の名はリヴァイだ。」
「リヴァイ……さん……」

 さっきのゴロツキ連中もそうだが、ウォール・マリアにいる人間で【リヴァイ】の名前を聞けば、恐れながらも媚びてくる鋼の心臓を持った命知らずか、怯えながら逃げ去るかの二つに一つだ。
 どちらの反応も示さないということは、この少年はウォール・マリアに来たばかりなのか、薬漬けにされて頭がおかしくなっているのかどちらなのかもしれないが、それよりもリヴァイはこの少年にまず聞きたいことがあった。

「おい、てめぇは一体何者だ?」
「え……何者って……?」
「自覚がないのか?さっきから甘ったるい匂いが鼻について仕方がねぇんだよ。発情期のオメガのクセにどうして抑制剤も飲まねぇで外をウロついてやがった?」
 
 リヴァイは少年の体を背中から壁へドンっと乱暴に押し付ける。しかし少年はまったく憶することなく、口元を綻ばせた。

「――――あなたにはわかるんですね……」
「わかる……?どういうことだ?」
「オレは確かにオメガのようですけどいまは発情期でも何でもない。というか……発情期っていうのがよくわからないんです。」
「発情期がわからないだと……?現にお前、あいつらにヤラレまくって逃げていたんだろうが。」
「あぁ……さっきの人たちはオレから誘ったんですよ。オレここに来たばかりでよくわからなかったから聞こうとしたら、見返りを求めてきたんです。オレ、お金なんて持ってなかったら……でも薬だなんだって変態プレイをさせようとするから逃げ出しただけです。」

 少年は大したことない用事を思い出したかのように軽く受け流す。リヴァイは眉を顰めた。

「てめぇから誘ったのか、とんだビッチ野郎だな。発情期でないというのならこの甘ったるい匂いは何だ?」
「ビッチだなんて失礼ですね。一応言っておきますけど、オレ、別に誰でもいいってわけじゃないんですよ。」

 少年の手がスルリと伸び、リヴァイの頬を擽るように触れる。また匂いがキツくなったような気がして、リヴァイは咄嗟に少年の手首を掴んだ。珍しく余裕の無い表情をしていたのかもしれない。少年はとても十代とは思えない、妖しい笑みを浮かべた。

「リヴァイさん……やっぱりアルファなんですね。もしかして我慢できなくなってます?」
「てめぇ……この俺を支配するつもりか?」
「支配だなんてとんでもない。オレはずっと探していたんです。あなたのような人を――――リヴァイさん。」

 甘く、花のような匂い。だがいつもリヴァイが毛嫌いするオメガ特有のフェロモンとはまったく違う。この匂いにリヴァイの理性の箍はいまにも外れそうになっていた。

「お前、俺を確かめるつもりか――?」
「オレは自分にふさわしい――オレのこの身に宿る呪いを開放してくれる相手を探していたんです。ずっと、一人で……」
「呪い―――?何だ、それは?」

 リヴァイが問うと少年は寂しげな色を浮かべながら大きな瞳を揺らす。

「それはまだ教えることはできないというか、実はオレ記憶が曖昧なんです。オレが覚えているのは自分に呪いがかけられていて常に体から特殊な匂いが発せられていることと、あとは自分の名前だけ……それ以外は何も……」
「記憶喪失か……」

 少年が言うには一年より前の記憶がまったくないらしい。親や家族の名前や顔もわからず、たった一人で世界を彷徨っているうちにウォール・マリアに辿り着いたというのだ。 

「オレのこの匂いを感じ取れるアルファはほとんどいないみたいだからずっと探していたんです。もしかしたらこの匂いを感じ取れる人ならオレの呪いを解いてくれるかもしれないって……」
「お前自身が呪いのことをわかっていねぇというのに、そいつに解けるわけねぇだろ……」
「だから試してみたいんです……リヴァイさん。オレにかけられた呪いが何なのか知りたいから……お願い……」

 要はセックスをしたいということなのだろう?とリヴァイは苛立ちを隠せなかった。これまでリヴァイとセックスしたいという連中は星の数ほどいたが、こういう要求をされたのはもちろん初めてであり、いつものリヴァイだったら当然のように断るところだろう。だがリヴァイ自身、少年を目の前にして既に我慢の限界点に達しようとしていた。

「この俺がお前の呪いを解くのにふさわしいアルファかどうか確かめたいということか?随分と命知らずな奴だ。」
「あなたのこと知っています。このウォール・マリアを統べる闇の王なんでしょ?ここに来たときあなたの名前を耳にしてもしかしたらと直感的に思ったんです。」

 少年はツンツンと自分の胸を指差す。そしてその直感を信じ、ここの来たのは正解だったのだと満足げな笑みを浮かべた。

「オレのこの匂いを感じとった人、あなたが初めてなんです。」

 リヴァイは無自覚なのか強請る瞳で見つめる少年の手首を掴み、さっきからパンパンに膨らんで固くなっている自身の下半身へと触れさせた。

「俺をここまで煽ってやがるんだ……容赦はしねぇぞ。お前のケツが無事で済めばいいけどな……」

 少年は赤い果実のような舌をペロリと出しながら微笑んだ。

「もちろんです……あなたをオレに溺れさせてあげますよ。」

 また匂いが強まる。鼻が麻痺して頭がクラクラする――まるで効き目の強い媚薬を飲まされたような感覚、リヴァイにとってはもちろん生まれて初めてだ。

「――――後悔するなよ。」

 リヴァイは最後の砦だった鍵を自らの意志で解き放った。


「ふぅっ……んんっ――――」

 少し前だったら絶対に有り得ない光景だと断言できる。もうすぐ三十近くになろうといういいお大人が十代の少年を組み敷いた上、意識が飛びそうなほどに腰を振り性を放っているのだから―

『こいつは……ヤバすぎる。』

 いくらフェロモンに刺激されたとはいえ、リヴァイは欲望の赴くままに行動してしまったことを少しだけ後悔した。
 リヴァイに言い寄ってくる輩とのセックスは後で面倒なことになるのは確実なので拒んできたが、それなりには自身の性欲を処理してきたつもりだ。体の相性がそこそこ合えばそれで十分であり、もともと気持ちを伴わないので相手が誰であろうとリヴァイには構わなかった。
 だがいま自分の下で高まる快感に身を捩らせながらも恥じている少年はまったく違う――いわば相性が良すぎるのだ。汗も何もかも跳ね返してしまう弾力のある肌、リヴァイの愛撫に反応しては壊れたように何度も打ち震えながら吐精する少年の欲望。そして何より、リヴァイの熱く滾る塊を受け入れている少年の体はまるで、リヴァイのことを待っていたかのように悦びに満ち溢れていた。
 最初は抵抗感があったものの、奥まで一気に突き入れるとビクンと大きく痙攣しながら内壁が適度に締めつけてきた。
 過去にオメガの男を抱いたことがないわけではない。フェロモンの匂いに嫌悪感があるため発情期ではなかったが、オメガの男特有の性器は女のそれより遥かに具合がよかったことだけは記憶がある。

『だが……こいつはそれらともまったく違う……』

 リヴァイ自身、体の制御を失いそうになる。まったく慣らさなくても尻の奥から溢れてくる愛液はトロトロと温かみがあってリヴァイを包み込む。それがいまや中で溢れてリヴァイが律動する度にグチュグチュと卑猥な水音を立てていた。
 ここが風呂場でよかったとつくづく思う。リヴァイも全身から汗が満ちてきている。汚れた体と汗はこのまま洗い流してしまえばいい。雨によって冷え切って体は互いの体温が混ざり合って火傷しそうなほどに熱くなっていた。

「あぁんんっ……やっ、……すごっ……!こ、こんなの……はじめてかも……」

 少年も自分を抑え切れないようで艶めいた声で喘ぐ。リヴァイは壁に体を押し当て挟み込むようにして後ろから少年を攻め立てていたが、声だけでは物足りなくなってきてしまった。

「リヴァイ……さんっ?」

 急にリヴァイが腰の動きを止めたせいで、少年が熱い息を漏らしながら不安げにこちらを振り向く。リヴァイはそのまま少年の唇を塞ぎ、舌を絡めて吸い上げた。

「ふぅっ……うぅんっ――――」

 やはりそうかとリヴァイは呆れた。あれだけ大層なことを言っていてもこの少年はキスに戸惑いが見える。ぎこちなく、少し不安の込められたキスは少年がキスやセックスといった経験があまりないのだということを彷彿させる。その途端、リヴァイの中に優越感のようなものが沸いてきた。
 唇を離すと少年はすっかり蕩けた表情をしながら、涙で目を滲ませている。リヴァイはフッと笑みを零しながら一度腰を引いた。

「こっちを向け。もっとお前の顔が見てみたい。」

 リヴァイはぬるま湯が張られた浴槽に腰をかけ、少年を跨がせる。細い腰を両手で掴み、フラつきそうな上半身を支えた。

「そういえば名前をまだ聞いてなかったな。」
「名前―――エレン………」
「エレン、どうだ?俺はお前の探していた相手だったか?」

 リヴァイの問いにエレンは俯きながら小さく首を振った。

「わからない―――やっぱり思い出せない……オレのこの匂いを感じ取れる人とセックスしてみれば呪いが解放されると思っていたけど違うみたいです。」

 どうやらアテが外れてしまったようで、エレンはガックリと肩を落とした。そもそも記憶がないのだから仕方がない。セックスをして思い出せるほど容易なものではないのだろう。
 エレンには自身でも知らない大きな秘密が隠されているのではないか――その真相を知る人物として思い当たるのはピクシスなのだが聞き出すのはもう不可能といえる。リヴァイの裏切り行為を向こうはとうに嗅ぎつけている頃だ。

「エレン、お前はこれからどうするつもりだ……?」
「記憶を取り戻したいです。そうすれば呪いのことも思い出せるかもしれないですし……でもこの先どこに行けばいいのかわからないし、よくはわからないけどオレ、追われているみたいでどうすればいいのか……」
「なるほどな……だったら協力しないでもない。」

 思いがけない言葉だったらしく、エレンはこれまでとは一転して目を輝かせた。

「本当……ですか?」
「あぁ、お前がウォール・マリアに来たのは何か手がかりがここにあるからなのだろう?俺はここのことなら何でも知っている。味方にしておいて損はないと思うのだが?」
「う、うれしいですが、さっきも言いましたけど、オレお金とか全然持っていなくて………」
「あぁ、お前からの報酬は決まっている。」

 リヴァイはエレンの腰を自分の方へ強引に押しつける。一度出した熱い楔が再び中を貫き、エレンは弓のように背中を撓らせながら甘い叫び声を上げた。

「あぁぁぁっ―――」

「その分俺に体で支払え。」

 リヴァイは下からエレンを容赦なく突き上げていく。リヴァイにしか感じ取ることができない甘い匂いが充満していている風呂場という密閉空間。リヴァイはエレンが醸し出す甘い媚薬にすっかり翻弄されてしまっていた。

「あぁんっ、すごいっ……リヴァイ、さんの……が…中で……動い、て……そこっ!」

 最奥少し手前を挿入する度にわざと先端で強く擦りつけてみると明らかに反応が違う箇所がある。そこがエレンの弱点だと確信したリヴァイは執拗に攻め立てていく。
 快感に耐えられないのかエレンはリヴァイの背中に爪を立て始めた。
「そこが好きなんだろう?どうする?もっと欲しいか?」

「――んんっ、もっとぉ……!そこ、もっと……欲しいっ!」

 物足りないとでもいうように、エレンの方から積極的に腰を押しつけてくる。二人の腹の間でエレンは何度も何度も白い欲望を勢いよく吐き出している。さらに二人の結合部分からはどちらのものかわからない愛液が溢れ出し、浴槽の湯と混じり合っていた。

「あぁっ、イキ……そうっ……も、もぉ……ダメっ……!」

 エレンが声を震わせながら限界を告げる。さっきから押し寄せる快楽の波を堰き止めていたリヴァイは角度を変えながら腰の動きをさらに加速させていく。エレンはビクンと腰を大きく跳ね上げながらリヴァイへの締めつけを強めてきた。

「あぁんっ―――っ!リ……ヴァイさんっ……イっちゃう!…お、願い……名前……呼んで……」
「―――…エレン……」

 激しく最奥を貫くとエレンがビクビクと体を震わせて、勢いよく射精する。これまでにないほど締め上げられ、リヴァイも自信の欲望をエレンの中へと穿き出した。

「あぁぁぁっ――――――リヴァイっ…さん!」

 意識を失ったのか背中が仰け反りそうになるエレンの体を支えるリヴァイは自分の目を疑った。

「な……ん、だと……?」

 淡い黄金色の光に包まれるエレンの体に少しだけ目が眩む。次の瞬間、エレンに獣のような黒い耳と長い尻尾が生えた半人半獣の姿へと変化したのだ。

「獣……まさか……」

 恐る恐る耳と尻尾に触れてみる。手触りも重みもそれが夢幻でないことを実感させられる。いままで見たことの無い出来事だがこの状況ではリヴァイは現実として受け入れざるほかなかった。

「―――どういうことだ?おい、エレン。起きろ。」

 体を揺さぶりながら起こそうとするが、エレンは一向に目を覚まさない。静かな寝息を立てながらスヤスヤ眠っている。リヴァイはエレンの体を大きなバスタオルで包み込み、自分の部屋へと運び込んだ。
 二人は十分に寝ることができる広さであるキングサイズのベッドの中央にエレンを横たわせると、リヴァイはほぅっと一息ついた。すやすやと無垢な顔で眠るエレンはそこいらいにいる十代の少年と何ら変わりはない。耳と尻尾が生えている以外はちょっと変わったオメガの変異種で済んだのかもしれない。
 しかしこれでピクシスがエレンを探し出している理由がわかった。そして昼間の男が嘘偽りを言っていなかったこということもいまになって判明した。
 確かにエレンの存在だけで先進国の年間の国家予算分ほどの金が動く。闇取引をしている連中からすれば喉から手が出るほどに追い求める価値がある。

「幻のオメガ……ガキの頃散々聞かされてのが、まさか本当に実在するとはな………」

 このときリヴァイの中でエレンに対する支配欲が生まれようとしていた。
 エレンは誰にも渡さない――
 リヴァイがここまで執着心を見せるのは自分でも驚くほど珍しいことといえる。
 エレンに触れようと指を伸ばすと、瞼がピクリと動くのが見えてリヴァイは動きを止めた。

「起きたのか……お前……?」

 開かれたエレンの瞳の色――さっきまでは銀色だったはずなのに、いまは黄金色の輝きを放ちながらリヴァイの方を見た。

「……………」
「エレン――――?」

 どうもエレンの様子がおかしい。瞳の色や姿だけでなく、身に纏う空気そのものがさっきまでとはまるで別人なのだ。
 エレンは伸ばしかけたリヴァイの手首を掴み、引き寄せる。リヴァイは隙を突かれ、バランスを崩してエレンの方へ倒れ込む形となってしまった。

「っ―――――!」

 触れる唇。エレンの方から積極的に舌が差し込まれてくる。やっと引いたはずの熱が再び疼き始める。リヴァイは呑まれそうになるのをこらえ、エレンの体を強引に引き離した。

「一体どういうつもりだ、エレン!」
「オ……レ……リヴァイ……ホシ……イ……」

 カタコトの喋り方はまるで別人だ。いま目の前にいるのはさっきのエレンとは別人格としか言いようがない。しかも信じられないことにエレンの力が強く、リヴァイの体はいとも簡単にベッドに背中から張りつけにされてしまう。欲望に滾った瞳でリヴァイを見下ろすエレンの独特の匂いが刺激し始めてきた。

「悪いがエレン、俺はお前に突っ込まれるつもりはねぇぞ。」

 最悪、蹴り上げてやろうとリヴァイはエレンを睨む。エレンは妖しい笑みを浮かべると体をずらし、下半身を舌で擦り始めた。

『くそっ……これじゃこっちが呑み込まれてしまう……』

 獣化したエレンは聞き分けのない生まれたての赤子のようだ。リヴァイはどう扱えばいいのかと頭を悩ますものの、エレンのぎこちない愛撫に体は貪欲に反応してしまう。それがまたうれしいのかエレンは張り詰めるリヴァイの昂ぶりをあますことなく舌で舐めながら指で擦り上げてきた。
 仕方ねぇかとリヴァイはエレンの額を指先でツンとつつく。エレンは何事かとリヴァイの顔をジッと見つめた。

「そんなに俺のことが欲しいか?エレンよ……お前が何者か知らねぇが、俺のことが欲しいっていうのなら………」

 リヴァイは隙を見て百八十度反転させたエレンの体に覆いかぶさる。驚いたのかエレンの耳と尻尾は微かに震えていたがもはや手遅れというものだ。

「もっと俺を楽しませてみろ、エレン――――」

 エレンは一瞬だけきょとんとした表情をしたが、すぐにニッコリと満面の笑みを浮かべ、リヴァイの首に両手を回してくる。さっきまで震えていた耳と尻尾は、手の平を返すように今度は悦びを表すような仕草を示していた。

「リ……ヴァイ…、リヴァイ……!」

 こっちのエレンは無邪気な表情を見せつつもとても十代とは思えない妖艶な雰囲気を感じる。さすがのリヴァイもうっかり手を出したら火傷をしてしまいそうな勢いだ。

「だが……おもしれぇ………」

 生涯で一番タチの悪い相手に手を出してしまったのかもしれないと思いつつも後悔などしない。当たり前のように世界の闇を一人で支配してきたリヴァイにとってこのとき生まれたのは何とも言いようがない高揚感だった

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