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無料配布本「美しき狂獣の檻」サンプル

COMICITY大阪 ゆ-18a  第5回壁外調査博 え-32a
 Mikeneco Cafe
リヴァイ×エレン小説 無料配布本 R-18

「美しき狂獣の檻」

リヴァエレオメガバースパロ。かなりどシリアスな話(死ネタ有)の上、エレンがかなりのビッチなので要注意。


【あらすじ】


囚われたのはお前か―ーそれともこの俺か―ー



アルファ、ベータ、オメガの遺伝子による階級差別からあぶれた者たちが集う【特区ウォール・マリア】はどの国にも属さない、いわば無法地帯。
武器や麻薬の密輸、人身売買、サイバーテロ、そして殺人が日常茶飯事となっている巨大な裏市場を手中に収めるため、世界の大国が介入し抗争が行われていたこの特区を統べる者が現れる。

ウォール・マリアに君臨した闇の王―リヴァイは優れたアルファの遺伝子を持ちながらその素性がまるっきり明かされてない一方、圧倒的な強さと洞察力、そして統率力を備えている絶対的な存在。このため世界の大国はウォール・マリアから撤退せざるを得なくなり、リヴァイによって均衡が保たれることとなった。

数年後、リヴァイは会合の帰りにゴロツキに追われていたオメガの少年を助ける。
エレンと名乗るその少年はトロスト国の裏社会のトップ・ピクシスが探している謎めいた存在。記憶が曖昧なエレンに普通のオメガと違う何かをアルファの本能で感じたリヴァイはそのまま匿うことにする。
だが、エレンが放つ特殊なフェロモンの甘い誘惑に逆らえなくなってしまい、決して触れてはならないパンドラの箱を開けてしまう。

エレンが追われている理由は何か?
都市伝説化した『幻のオメガ』とは……?

リヴァイとエレンの出会いがやがてウォール・マリア、引いては世界を大きく動かす事態となる―ー




★こちらは1/25の第5回壁外調査博でも配布します。
 ※インテでは大丈夫だと思いますが、壁博では無くなり次第終了となりますのでご容赦ください。
★1/11のインテ、1/25の壁博ともに新刊はありません。お気軽に取りに来ていただければと思います。
★1/25の壁博はこちらとは違う無料配布本を出す予定です。多分原作軸のラブラブなお話。
 決まり次第お知らせします。



サンプルは冒頭部分です。
サンプルにはエロシーンもなくエレンがあまり出ていませんが、本編ではこの後ガッツリ初エロシーンがあるためR18とさせていただきます。







 アルファ、ベータ、オメガ、人類が三種の遺伝子によって差別されているこの世界でオメガは最も希少種とされている。
 その中で数百年に一度生まれるかどうかとされる幻のオメガなるものが存在するらしいが、近年は確認されていないことからもはや都市伝説と化していた。


 人間というのは愚かな生き物だ。どんなに正義を貫こうとも最後は欲にまみれて自滅する。優れた遺伝子を持つアルファであっても結局は己の欲に支配され、周囲を巻き込んで絶え間ない争いを引き起こす。長い歴史の中でそんなことをずっと繰り返してきた報いなのか世界は真の闇を生み出してしまったのだ。
 特区ウォール・マリア――皮肉にも聖書に出てくる聖母と同じ名前をつけられたその場所は、どの国も介入できないいわば無法地帯で、遺伝子による厳しい戒律から逸れた者たちが集まるこの世界の闇ともいわれている。
 ウォール・マリアには政府や役所、警察などという公的機関は一切存在しない。そのため自由に出入りができるものの当然命の保証はない。ここでは公にできない闇取引や密輸、売春、殺人などが頻繁に起きている。一度巻き込まれてしまえば何があろうと地の果てまで追いかけられ、命を奪われるのだ。
 各国が手を出せずにいるウォール・マリアを総べる者が数年前に現れた。【闇の王】と恐れられる彼はもともとウォール・マリアの出身らしいが詳しい素性は明かされていない。スパイが何度も送り込まれたが皆、無残な屍となって帰ってきたため各国は静観することにしたのだった。
 彼の名はリヴァイ――
 ウォール・マリアを支配する闇の王の傍にと擦り寄ってくる輩は後を絶えないがリヴァイの取り巻きは少ない。彼は真に心を許す相手しか傍に置かないことで有名で、しかも取り巻きたちの実力も申し分ない。
 その日も外から来たばかりのならず者がリヴァイに取り入ろうとアジトを訪ねてきたのだが、あることがきっかけでリヴァイの機嫌を損ねてしまい、いままさに酷い拷問を受けていた。

「ひっ、ひぃぃぃっぃ!わ、悪かった!俺はここに来たばかりだから何も知らなかったんだ。許してくれ!」

 男はまだ二十歳にもなっていないのだろう。このくらいの年齢は若さゆえに大きな野望を抱きやすい。野望を抱くのはいいことなのだがここでの礼儀を知らなかったのが運のツキだとエルドは目の前で身ぐるみ剥がされて手足を縛られている男に心の内で同情した。

「いい加減悪あがきはやめておけ。お前は運がなかったんだよ。ここに来る前に風呂でも入ってくればもうあと一時間は長く生きられたのにな。」

 男に向けた銃のトリガーにかけている指の力を籠めようとしたその瞬間、部屋にリヴァイが入ってきた。本当に運のいい奴だとエルドは誰にも聞こえない声で呟く。殺されるいまにも恐怖で失禁しそうな男をリヴァイは無言のまま一瞥してからエルドの方を見た。

「何かこいつから情報は引き出せたか?」
「なーんにも。ただのゴロツキのようです。」

 リヴァイに近づく輩の中にはこの特区を狙う周辺諸国のスパイや暗殺者が紛れ込んでいることが多い。その場合は数日間拷問をして必要な情報を引き出した上で殺し、見せしめとして国境付近にわざわざ死体を晒す。傍から見れば血も涙もない非情な行為ともとれるが、それこそが特区ウォール・マリアの闇の王の威厳を各国にしらしめることになり、極めて重要なことなのだ。

「そうか。だったらサッサと殺してしまえ。時間の無駄だ。」

 リヴァイから突き付けられた死の宣告に、男は身を乗り出して命ごいを訴えた。

「わ、わかった。だったら俺がこれまで隠してきたとっておきの情報を教える。だから助けてくれ!」
「ほう……とっておきの情報だと?」

 男がコクコクと大きく頷く。リヴァイは右手をスッと上げ、エルドに男を殺すのを止めるよう合図した。素直に銃を胸元のホルダーにしまったエルドだったが、やけに珍しいなと首を傾げた。男の話に興味が出たのか、それとも死に間際の男の足掻きを楽しんでいるのかその真意は諮りかねる。
 リヴァイは近くにあったソファに深く腰をかけ、自らが愛用している銃を取り出し男の額の真ん中に銃口を充てた。

「そのとっておきの話がつまらねぇもんだったら、このまますぐにズドンだ。何が起きたかわからねぇうちにあの世に行ける。」
「ひっ……は、はい……」

 男はさっきよりも青ざめた顔で二~三度深呼吸してから恐る恐る喋り出した。

「俺、半年前にこの特区に来たばかりなんすけど、まだ右も左もわからないとき迷ってしまって……そのとき見たんすよ。」
「見た?何をだ?」
「あれは月が綺麗な夜だった。誰もいない廃墟ビルの屋上に佇む美しい獣の姿をした人間を。」

 呆れたエルドは長い溜息をつきながら頭を掻いた。

「おい……いくら死にたくないからといって、そんな誰も信じられないような嘘をつくんじゃないぞ……」

 男はエルドの方を振り向き噛みつくような勢いで叫んだ。

「本当なんすよ!俺が見たのはネットとかで注目されている【幻のオメガ】に違いないっ!あれ捕まえたら破格の取引で売れるんじゃないんすか?何なら場所、教えてあげてもいいっすよ。」

 やっちまったなとエルドは苦笑いを浮かべるしかなかった。そんなハッタリをリヴァイが信じるとは到底思えない。この男の頭に風穴が開くのもあと少しかと思いきや、リヴァイは男の額に当てていた銃口をなぜか天井に向けて一発引いた。

「ひっ……ひぃぃ………!」

 ズドンと鼓膜が破れそうな音に男は身を飛び上がらせてガクガクと震わせながらリヴァイを凝視した。

「幻のオメガか……おもしれぇこと言いやがるなお前。すぐに殺すのはもったいないくらいだ。」

 どうやらリヴァイは男の情報に興味を持ったらしい。手ごたえを感じたのかいまにも泣き出しそうな顔をしていた男は強張らせたまま無様に笑った。

「さ…すが、闇の王と言われる御方だ。見る目が違う!何ならいまからでも幻のオメガがいた場所に案内しますぜ。」
「あぁ……その必要はない。」
「え――?」

 間抜け面できょとんとする男をリヴァイは見下した目で見つめながら立ち上がった。

「エルド、こいつをハンジのところへ連れてってやれ。」
「え……リヴァイさん、まさか……」

 男は意味がわからずリヴァイとエルドを交互に見る。リヴァイの意図を察したエルドはつくづく運のない奴だと同情した。

「死ぬ間際でも何とか生き延びようとするお前の度胸はさぞやハンジのいい実験動物になるだろう。よかったな、これでお前は望みどおり生き延びることができるぞ。」
「じ………じっ、けん…どう……ぶつ?ま、まさか……マッド・サイエンティストのハンジ……?」

 男の全身から血の気が失われていく。ここに来て日が浅いながらもハンジの噂は耳にしていたようだ。

「そのまさかだ……このまま銃で殺されていた方がよかったと後悔することになるぞ、お前………」
「ひっ、……やっ…やだぁぁぁぁぁぁぁ!」

 男が狂ったように暴れ出し、リヴァイに飛びかかろうとしたが首にかけていた鉄の鎖で届かず、控えていたグンタやオルオに取り押さえられてしまう。エルドは二人に男を連れ出すよう命令した。

「幻のオメガ……ですか。俺もガキの頃に聞いたことはあるんですが、その存在を確認できなくて確か既に都市伝説化していましたよね。まだ信じている奴がいるとは……」
「俺はあの男の言ったことが嘘だとは言ってねぇぞ。」

 リヴァイの言葉にエルドは思わず意外そうな声をあげた。

「えっ?それは意外ですね。もしかしてリヴァイさんも幻のオメガを見たことあるんですか?」

 するとリヴァイは何も言わずフッと口元を綻ばせる。出会ってからもう五年近く傍にいるが、リヴァイがこんな表情をするのは滅多に見たことがない。荒れ者ばかりが集う無法地帯・特区ウォール・マリアを統べる闇の王の和らいだ表情など見たら娼婦たちがさぞや悦んで擦り寄ってくる様子がエルドには容易に想像できた。

「今晩は外からの来客だったな、エルド。」
「え……あ、はい。トロスト国で幅を聞かせているマフィアのトップ、ピクシスとの会合は午後の七時から、場所はいつものハンネスのBARです。」
「あの爺さん、今度はどんな面倒くせぇ話を持ってきやがるんだ。」

 リヴァイはあからさまに嫌そうな溜息をつきながら天井を見上げた。世界が一目置くリヴァイには、ほぼ毎日のように闇取引やら密輸やらの話が持ち込まれる。それはすべて陽の光に晒すことのできない危険なものばかりだ。
 しかし、特区ウォール・マリアはこうやって各国に巣食う闇と取引きすることで影響力を広げている。だからこそ各国はウォール・マリアに対しては見て見ぬふりをしており、それで世界の光と闇の均衡が保たれているといえる。

「年の功というところですかね。こことの付き合い方も熟知している。さすが東の大国、トロスト国の裏を長年仕切っているだけのことはあります。」
「あの野郎は時々俺のことをガキ扱いするから気にくわねぇ。いつかシメてやる。」

 リヴァイは毒舌を吐きながら出かける支度を始める。面倒くさい相手でも礼儀だけはきちんとわきまえている。リヴァイは黒の上下のスーツに白いスカーフのついたシャツに着替え、エルドを伴いハンネスのBARへと向かった。


 身に着けている腕時計はどうやら針が進んでいるらしい。ハンネスのBARについたときに見たら午後七時を少し回っていた。
 ウォール・マリアの中心部は多くの店が連ねており、昼夜関係なく賑わっている。そしてそこでは武器や薬の密輸、人身売買など表ざたにできない行為がここでは容認されている。だからこそトラブルからの殺人も頻繁に起きており、翌朝になると死体回収業の連中が忙しなく働くというのが日常と化している。
 BARの中に入ると、ガラの悪い連中が酒を浴びるように飲みながら大声で話していた。間を縫って奥へと行った先にあるカウンターでは、マスターのハンネスがグラスを磨いていた。

「ハンネス、景気はどうだ?」
「リヴァイの旦那、いらっしゃい。最近は外からの流れ者が多くて喧嘩ばかりで困ってますよ。」

 ハンネスはリヴァイに酒の入ったグラスを出す。周囲には気づかれないだろうが、ハンネスはグラスとともに手に忍ばせたカード式のキーをリヴァイに渡した。何事もなかったかのようにグラスとキーを受け取ったリヴァイは酒を一気に飲み干す。かなり度の強い酒だったようで、感心したハンネスはヒューっと口笛を吹いた。

「いつも上等な酒が入ってきているようだな、ハンネス。」
「これもリヴァイさんのおかげですから。今後ともよろしく。」

 リヴァイは酒代と言わんばかりの金をハンネスに渡し、店の奥の隅にある幕で仕切られ場所へと進む。ここは一見物置のように見えるので客は見過ごしてしまだろうが、実はこの先にVIP専用の部屋がある。リヴァイは外からの客との密談はいつもここで済ますようにしていた。
 重く固い扉がリヴァイとエルドの前に立ちはだかる。ハンネスから受け取ったカードキーを扉の横にあるセンサーにかざすと、扉が開きそこにはピクシスが既に酒を優雅に飲んでいた。

「おぉ、来たか。リヴァイ、ひさしぶりじゃのう。」
「最近姿を見なかったのでてっきり裏の世界から引退したものだと思っていたが?」
「何を馬鹿なことを言っとる。ワシには引退の二文字はない。生涯現役じゃ。」

 ピクシスはリヴァイが来るまでに大分酒を飲んでしまったらしく、既に頬のあたりが真っ赤になっている。リヴァイが真向いのソファに腰をかけると、ピクシスは自分が飲んでいたとっておきの酒を用意していたグラスに注いだ。

「それで?あなたがここに直接来るということは、何か重大な事態でも起きたということなのか?」

 ピクシスはリヴァイが一目置く数少ない人間の一人。歳を重ねたといっても長年、東の大国トロスト国の裏の世界を牛耳っていたという経験に勝るものはない。できることなら敵に回したくないとリヴァイは思っていた。

「別にたいした話ではないんだがのう。人探しをしておるのじゃ。」
「人探し?」

 リヴァイが聞き返すと、ピクシスは部下に命じて一枚の写真を見せる。歳は十五~六歳だろうか、黒い髪にしなやかな体をした一見中性的な顔立ちの少年が映っていた。リヴァイはそれを目にした瞬間、体の奥がドクンと大きく脈打つのを感じた。

『何だ……こいつは……?』

 過去に会った記憶などないはずなのだが、揺さぶられるものを感じる。リヴァイはピクシスに悟られないよう冷静を装った。

「この少年がウォール・マリアにいるという情報を嗅ぎつけてのう。見かけたことはないかの?」

 ピクシスが本音を上手く隠しながら探ってくるので、リヴァイはどう返答したものかと遊び心に駆られた。

「あんたほどの人が直々に探しに来るということは、こいつはよっぽどの値打ちがつくということか?」
「親戚の息子なんじゃよ。親と喧嘩して家出をしたみたいでのう。頼まれて探しておったところ、このウォール・マリアでよく似た少年を見かけたという話を聞いて探しに来たのじゃ。」

 リヴァイは口元を綻ばせながら、写真の少年を目に焼き付けた。

「ウォール・マリアでは女、子どもの売買は日常茶飯事だ。特にこんな顔した活きのいいガキなら、ソッチの趣味がある豚野郎どもにとっくに薬づけにされて毎晩ケツに突っ込まれてるだろうよ。」
「ふむぅ……そうなる前に何とか保護をしたかったからお主に会いに来たんじゃが困ったのう……」
「ここは外から流れてくる人間が多い。そんな奴らの顔を俺がいちいち把握しているわけねぇだろ。」

 普通ならな――とリヴァイは口に出さずに胸の内で呟く。ピクシスもリヴァイをごまかし切れてるとは思っていないようで、逆に腹を探られるのを避けるためか、手にしていたグラスの酒をテーブルに置いたピクシスの表情から笑いが消えた。。

「わしは明日には帰る予定だが、できればこの少年を探して保護してほしい。礼は弾むつもりじゃ。」

 そう言ってピクシスは部下に命じ、リヴァイに信じられないほどの多額の金額が書かれた小切手を渡す。すぐ横にいたエルドは動揺のあまりギョッとした声を上げた。

「―――どういうつもりだ?」
「手付け金じゃ。その少年を保護した際はさらに倍の額を渡そう。」
「たかが親戚の息子を探すにしては太っ腹な額じゃなねぇか。このガキ、一体何者だ……?」
「……それ以上は無用の詮索じゃ。これはお主のために言っとるんじゃ、リヴァイ。」

 二人の間を流れる空気が一瞬にして凍りついたものへと変わる。リヴァイの横にいるエルド、そしてピクシスの横にいる部下がそれぞれ銃を構えようとしたが、ここは上手くリヴァイが止めた。

「この俺を人探しのための犬に使うのはあんたくらいだよ。」
「ワシはお主のことを犬などと思ったことなど一度もないぞ?お主はどちらかというと下手に手を出したら噛みついてくる手のつけられない獰猛な狼じゃろうが。」
「フン……勝手に言ってろ。」
「そろそろ番を見つけたらどうじゃ?お主ほどの者ともなると、引く手あまたじゃろうに……もったいない。」
「興味がねぇ。それに俺はあのオメガ特有の鼻につく臭いが嫌いだ。」

 これ以上はいても無駄なやりとりしかないと悟ったリヴァイは憎まれ口を吐き捨て早々に立ち去る。ピクシスは飄々とした顔で、リヴァイに手を振っていた。

「彼のことはくれぐれも頼んだぞ、リヴァイ。」
「あんたも帰り道で刺されないよう気をつけるんだな。ウォール・マリアの夜はこの世界で一番物騒だ。」

 嫌味を物ともせず、ピクシスは大好きな酒のグラスを片手にリヴァイを見送った。リヴァイは内心舌打ちをしながら車に乗り込んだ。

「まったく……相変わらず食えないじいさんだ。」
「お疲れさまです、リヴァイさん。あの少年の件はどうしますか?」
「無碍に断るわけにもいかねぇだろ。ここ最近の闇売買リストをとりあえず洗っておけ。」

 骨の折れる作業だとエルドは肩を竦めた。ピクシスが一見何の特徴もない少年になぜそこまで固執するのか興味はある。それに少年の写真を見たとき、リヴァイの胸の奥底で小さな熱が確かに疼いたのだ。
 リヴァイは優秀な遺伝子と言われるアルファ性の人間。その才能がいかんなく発揮されたからこそ、世界の闇が集う特区・ウォールマリアを統べることができたのだろう。ピクシスの言うとおり、そんなリヴァイの番になろうとするオメガたちが毎日のように強烈なフェロモンを放出しながらリヴァイを誘惑してくる。オメガのフェロモンに対してアルファは自制が効かなくなり、激しい性欲が沸き起こるはずなのだが、なぜかリヴァイはピクリとも反応することもなく、嫌悪感を抱くことしかできなかった。くされ縁であり、医学の心得もあるマッドサイエンティスト・ハンジの診断によれば、リヴァイはアルファの中でもちょっとした特異体質らしいのだ。不能、というわけでもなく気が向けば女を抱いてそれなりに自身の性欲を処理することもあるが、オメガを相手にしようなどということは少しも思ってはいない。
 もともと恵まれない家庭に生まれ、両親からの愛情を受けた覚えもなくウォール・マリアの闇で育ったリヴァイにとって、自身が番を得ることなど想像もできないのだ。

「危ないっ!」

 エルドの叫びとともに、後部座席でぼんやりとしていたリヴァイの体が大きく揺さぶられる。何かを避けようとしたのか車はキキーっというタイヤの音とともに、向かっていたのとは百八十度真逆の方向に止まった。エルドは慌ててリヴァイの無事を確認する。咄嗟にかばったため頭をぶつけることなどはなかった。

「くそっ!急に飛び出してきやがって……!」

 いきり立ったエルドが外に飛び出す。普段冷静なエルドを怒らした張本人はただで済まないだろうとリヴァイは少しだけ憐れんだ。
 車の前に出たエルドがなぜか戸惑いの視線をリヴァイへ送ってくる。不思議に思いながら外に出てみると、ポツポツだった雨足が一気に強まり、辺りの路面を濡らしていく。リヴァイがエルドの元へ向かうと、車の前に一人の少年が倒れ込んでいる。恐らく飛び出した張本人なのだろうがその顔を見たリヴァイは思わず息を漏らした。

「こいつ……さっき見た写真の少年では……?」

 エルドがリヴァイに問いかけながら少年の様子を詳しく見ようとしゃがみこむ。ボロボロの衣服の隙間から痣や傷のようなものが見え隠れしていた。

「ちっ……やはり、来やがったか………」

 リヴァイは舌打ちをしながらいまはすぐ近くの路地裏の方を睨みつける。ここは繁華街から外れた裏通りで狭い路地が入り組んでいて、普段は人影もまばらだ。少しすると少年と同じ年齢くらいのゴロツキたちが数人現れた。

「エルド、お前はこいつを車の中に運びこめ。」
「リヴァイさん、だったら俺が……」
「おいおい、兄さんたち何やってんの?そいつは俺らの玩具なんですけどぉ?いい大人のクセに横取りしないでほしいなぁ?」

 エルドは頭を抱えた。どうやらこのゴロツキたちはリヴァイの顔を知らないようだ。知っていたらリヴァイの姿を見ただけで失禁でもして逃げ出してしまうだろう。

「俺が説得した方が早く済むだろう?」

 エルドはそれ以上反論のしようがなく、大人しくリヴァイの言葉に従う。ゴロツキ連中のことは運のない奴らだと少しだけ同情することにした。


 ウォール・マリアの中心部にそびえ立つ唯一の超高層タワー。アジトに着いたリヴァイはエルドに少年を背負わせ帰路に着いた。
 自分もそうだが少年も雨に打たれて衣服はびしょ濡れ、体もすっかり冷え切ってしまっている。三人の姿を見たペトラがすぐに風呂の用意をしてくれた。

「リヴァイさん、お手伝いしなくても大丈夫ですか。」
「ここは俺がやる。ペトラ、お前はこいつ用のベッドとあとは傷薬を用意しておけ。エルドはこいつに関する情報をすべて揉み消せ。」
「やっぱりそうですか……ピクシスの部下が嗅ぎつけてる可能性もありますがどうしますか?」
「構わない、そいつらを消せ。」

 長年付き添っているだけのことはある。彼にとっては予想どおりの回答だったのだろう。エルドは口の端をニヤリと吊り上げた。

「ウォール・マリアで死体が転がらない日はないですからね。」
「そういうことだエルド。俺はこいつを調べる。」

 エルドとペトラが出ていくのを見送ったリヴァイは、まずは濡れて肌に張りついてしまっている衣服を剥がす。額に手を乗せると少しだけ熱い。ペトラが用意してくれた解熱剤のカプセルと水を自らの口に含み、少年の柔らくて弾力のありそうな唇に重ねた。

「ん―――――」

 ピクリと反応を示した少年は瞼を震わせながら吐息を漏らす。飲みきれないのかリヴァイから送った水が僅かな隙間から零れ落ちていった。

『こいつ………!』

 リヴァイは危険を察し、すぐさま唇を離した。吐き出さないので薬は美味く呑み込んだのであればそれで十分だ。

「――――ここは……?」

 目を覚ました少年は大きな銀色の瞳で周囲を見回す。ここに来る前、あのゴロツキたちによからぬ薬でも飲まされたのか、まだ意識が朦朧としているように見えた。

「お前を追いかけていた連中ならいない。もっとも、ここがお前にとって安全な場所かどうはお前次第だがな……」

 少年はリヴァイをジッと見つめた。

「あなたは、誰――――?」
「俺はリヴァイだ。」
「リヴァイ……さん……」

 さっきのゴロツキ連中もそうだが、ウォール・マリアにいる人間で【リヴァイ】の名前を聞けば、恐れながらも媚びてくる鋼の心臓を持った命知らずか、怯えながら逃げ去るかの二つに一つだ。どちらの反応も示さないということは、この少年はウォール・マリアに来たばかりなのか、薬漬けをおかしくなっているのか――それよりもリヴァイはこの少年にまず聞きたいことがあった。

「おい、てめぇは一体何者だ?」
「え……何者って……?」
「さっきから甘ったるい匂いが鼻について仕方がねぇんだよ。発情期のオメガのクセにどうして抑制剤も飲まねぇで外をウロついてやがった?」

 リヴァイは少年の体を背中から壁へ乱暴に押し付ける。しかし少年はまったく憶することもなく、口元を綻ばせた。

「――――あなたにはわかるんですね……」
「わかる……?どういうことだ?」
「オレは確かにオメガですけどいまは発情期でも何でもない。」
「現にお前、あいつらにヤラレまくってただろうが。」
「あぁ……さっきの人たちはオレから誘ったんですよ。オレここに来たばかりで右も左もわからなかったから聞こうとしたら、見返りを求めてきたんです。オレ、金持ってなかったら……でも薬だなんだって変態プレイをさせようとするから逃げ出しただけです。」

 少年は大したこともない用事を思い出したかのように軽く受け流す。リヴァイは眉を顰めた。

「てめぇから誘ったのか、とんだビッチ野郎だな。発情期でないというのならこの甘ったるい匂いは何だ?」
「一応言っておきますけど、誰でもいいってわけじゃないんですよ。」

 少年の手がスッと伸び、リヴァイの頬を擽るように触れる。また匂いがキツくなったような気がして、リヴァイは咄嗟に少年の手首を掴んだ。珍しく余裕の無い表情をしていたのかもしれない。少年はとても十代とは思えない、妖しい笑みを浮かべた。

「リヴァイさん……やっぱりアルファなんですね。もしかして我慢できなくなってきてます?」
「てめぇ……この俺を支配でもするつもりか?」
「支配だなんてとんでもない。オレはずっと探していたんです。あなたのような人を――――リヴァイさん。」

 甘く、花のような匂い。だがいつもリヴァイが毛嫌いするオメガ特有のフェロモンとはまったく違う。この匂いにリヴァイの理性の箍はいま外れそうになっていた。

「お前、俺を確かめるつもりか――?」
「オレは自分にふさわしい――オレのこの身に宿る呪いを開放してくれる相手を探していたんです。ずっと、一人で……」
「呪い―――?何だ、それは?」

 リヴァイが問うと少年は寂しげな色を浮かべながら銀色の瞳を揺らした。

「それはまだ教えることはできないというか、実はオレ記憶が曖昧なんです。オレが覚えているのは自分に呪いがかけられていて常に体から特殊な匂いが発せられていることと、あとは自分の名前だけ。この匂いを感じ取れるアルファはあまりいないみたいだから。」

 要はセックスをしたいということなのだろう?とリヴァイは苛立ちを隠せなかった。これまでリヴァイとセックスしたいという連中は星の数ほどいたが、こういう要求をされたのはもちろん初めてであり、いつものリヴァイだったら当然のように断るところだろう。だがリヴァイ自身、少年を目の前にして既に我慢の限界点に達しようとしていた。

「この俺がふさわしいかどうか確かめたいだと?命知らずな奴だ。」
「オレのこの匂いを感じとった人、あなたが初めてなんです。」

 無自覚なのかものほしそうな瞳で見つめられる。リヴァイは掴んだ少年の手首をさっきからパンパンに膨らんで固くなっている自身の下半身へと触れさせた。

「俺をここまで煽ってやがるんだ……容赦はしねぇぞ。お前のケツが無事で済めばいいけどな……」

 少年は赤い果実のような舌をペロリと出しながら微笑む。

「望むところです……あなたをオレに溺れさせてあげますよ。」






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